みかん小説
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"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第19話

美智子の目から、筋の涙が頬を伝って零れ落ちた。 だが、そのは涙を拭おうともしなかった。

「由紀さんからをもらった、私、恐ろしかった。あのが憎かった。どうして今更、以のことを掘り返して、私たちのささやかな余を脅かすのって……最初は、あのを追い払うことばかり考えてた」

美智子は顔をげ、私の目をまっすぐに見据えた。

「でも、違ったのよ。逃げていたのは、私だった。あなたを追いして、由紀さんとからまでのに話していたあの……私は由紀さんを説得しようとしていたんじゃない。自分が vingt-trois 背負ってきた欺瞞を、どうやって清算すればいいのか、怯えていただけなの」

「美智子……もういい。もう分かったから」 私はテーブル越しに、美智子のに縋り付こうとした。 「でやり直そう。俺が悪かった。おを共犯者にした俺が、全部悪いんだ。に戻ってきてくれ。これからは、何も隠さないから」

美智子は、私のを静かに、けれど決定な力で押し戻した。

「戻らないわ」

その声は、驚くほど静かだった。

「お互いに嘘をつきって、誰かの犠牲のに成りっていたの夫婦ごっこは……もう、おしまいよ」

「美智子!」

「って、修さん」 美智子はバッグを持ち、伝票を掴んでちがった。 「由紀さんと、誠さんが待ってるわ」

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「……え?」

「話さなきゃいけないのは、私たちだけじゃないのよ」

反田駅からタクシーで分。 連れてかれたのは、品川区の運沿いにある、古びた区民センターの会議だった。

パイプ子がつ、殺景な机を囲むように置かれている。 蛍灯のいが、剥きしのを寒々しく照らしていた。

部に入ると、すでにの物が座っていた。 誠と、由紀だった。

誠は昼の警備員の制ではなく、着古した紺のジャンパーを着ていた。 かないはポケットに突っ込まれたままだ。 由紀はその隣で、両を膝ので固く握りしめ、俯いていた。

私と美智子が入ってくると、誠がゆっくりと顔をげた。 昼の駐で見せた疲労困憊の表とは違い、その顔には、腹を括った男のい覚悟が漂っていた。

「……座ってください」 誠が言った。

私と美智子は、並んでパイプ子に腰をろした。 机の央には、あの茶く変した『示談』の控えが置かれていた。

沈黙が部を支配した。 換気扇のブーンというい唸り声だけが響く。

を切ったのは、誠だった。

「由紀」 誠は隣の妻を見ずに、正面の私を見据えたまま言った。 「おが言いたいこと、全部話せ。……俺ので、隠さずに話せ」

由紀の肩が、ビクッとねた。 顔をげないまま、由紀の指先が刻みに震え始める。

「……誠さん、私は」 「俺は昼、さんに『もう過のことはやめてくれ』と言った。それは本音だ。だがな、おがどうしてここまで頑なに、この示談に固執するのか……俺はずっと、分かってなかった」

誠の声は静かだったが、その奥に潜むのさに、部の空気が張り詰めた。

「おは、俺の無をらすためにやってるって言ったな。さんに真実を認めさせるためだって。……でも、それだけじゃないだろ」

由紀の喉から、ヒッとい嗚咽が漏れた。 彼女は両で顔を覆い、肩を激しく震わせ始めた。

「……ごめんなさい」 掠れた、押し潰されたような声だった。 「ごめんなさい、誠さん……私……私、ずっと嘘をついてた」

美智子が、息を呑んで由紀を見つめた。 私は何が起きているのか分からず、ただ固まっていた。

由紀は震えるで顔を覆ったまま、絞りすように言葉を吐きした。

「……で事故が起きて、誠さんのがかなくなった……病院の待に、藤原さんが来たの」

由紀の線が、机のの示談へと落ちる。

「藤原さんは言ったわ。『はもう持たない。今すぐ破産宣告をされたら、誠さんへの補償は円もない。雀の涙の配当で終わりだ』って。『でも、今ここで民事の示談に判を押してくれれば、の残った現から、最優先でに百万円を分割で支払う』って……」

私の臓が、鐘を打った。 百万の分割示談。 それは、私が藤原に命じてまとめさせた、あのだ。

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