"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第13話
「違う! 脅してなんかいない! 誠さん本が、もう過のことはやめてくれって言ったんだ! あいつらは夫婦で見が割れてるんだよ! 野のおが首を突っ込むような話じゃない!」
受話器の向こうで、美智子がフッと笑を漏らした。 息が止まるほど、残酷な笑い声だった。
『野……? そうね。私は、あなたの野だったわ。あなたの都のいいだけ族で、都な真実は全部隠されて、蚊帳のに置かれていた』
「美智子、頼むから戻ってきてくれ。でちゃんと話そう。だけで——」
『、午に品川区役所に来て』
「……は? 区役所? どうして区役所なんだ」
『由紀さんと緒に、民相談の無料法律相談を予約したの。当の示談の効力と、未払いの請求について、弁護士に確認するわ』
「な……何を考えてるんだ! のトラブルに、どうして私の妻がそこまで肩入れするんだよ!」 私は階段の踊りで鳴り散らした。理性が吹きんでいた。
「おは修の妻だろうが! どうして赤のの肩を持つんだ! 俺を社会に破滅させたいのか?!」
美智子は、しの、沈黙した。 そして、静かに、言言を噛み締めるように言った。
『あなたの妻だからよ』
「……え?」
『あなたがに置きりにしてきたものを、私も緒に背負ってきてきたのよ。らなかったとはいえ、あのたちの犠牲のに、私たちの平穏な活があったのなら……私は、共犯者だわ』
「美智子——」
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『、よ。来ないなら、それでもいいわ。そのは、別の続きをめるだけだから』
ツーツー、と通話が切れた。 夜の気が、私の全を包み込んでいく。
のが真っだった。 法律相談。弁護士。 美智子は本気だ。 私を脅すためじゃない。本当に、のパンドラの箱を、のに晒す気なのだ。
翌朝、午分。 品川区役所のロビーは、民票の交付や各種続きを待つ々でごった返していた。
私は壁際の総案内所の柱のにち、エレベーターホールを凝していた。 胃の底にい鉛を呑み込んだような吐き気がする。 ネクタイをどれだけ緩めても、息苦しさが消えない。
分。 自ドアがき、の女性が入ってきた。
美智子と、由紀だった。 美智子は普段のスーパーのパートでは着ない、濃紺のフォーマルなセットアップを着ていた。 髪をろできちんとまとめ、には革のビジネスバッグを提げている。 その隣を歩く由紀は、な黒のコート姿だったが、昨のような怯えた様子は微もなかった。
は並んで歩き、階へ続くエスカレーターへと向かおうとしていた。
「美智子!」
私は目を気にすることも忘れ、駆け寄った。 ロビーを歩く数の民が、驚いてこちらを振り返る。
美智子はを止め、ゆっくりと私に向き直った。
その顔には、りも揺もなかった。ただ、い国のを見るような、底えのする静寂が宿っていた。
「……本当に来たのね」
「美智子、頼むから正気に戻ってくれ!」 私は美智子の腕を掴もうとした。 美智子は素く歩がり、私のを完璧に避けた。
「触らないで。ここは公共の所よ」 「おこそ、何をやってるんだ! 法律相談だと? 弁護士に話したって、効だと言われて終わりだ! 以の民事の債権なんて、とっくに消滅効にかかってるんだよ! そんな無駄なことのために、どうして俺たちのをめちゃくちゃにするんだ!」
私の喚き声に、くの案内係の女性職員がそうに線を向けてくる。 だが、もう止まらなかった。
「俺がを潰した、どれだけ苦労しておを養ってきたか忘れたのか?! 毎をげて、をすすって、やっとに入れた今の活なんだぞ! それを、こんな昔の事故件で全部ドブに捨てる気か!」
私の言葉を、美智子は眉つかさずに聞いていた。 隣につ由紀が、耐えかねたようにをきかけたが、美智子がそっとをしてそれを制した。
「修さん」 美智子は、ビジネスバッグのファスナーを静かにけた。
「あなたはさっきから、『俺たちの』『今の活』って言っているけれど……そのに、私は入っていないわ」
「何……?」
「あなたが見ているのは、世体と、自分のプライドと、誰にも責められない全な所だけ。