"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第11話
「昨夜、泣きながら帰ってきましたよ。あんたが職に乗り込んできて、を押し付けてきたってな」 「あれは……誠さんの術費用のしにしてもらおうとってだな」 「嘘をつくな」
誠が、初めて私の目をまっすぐに見据えた。 その瞳には、藤原のような激しいりはなかった。 ただ、果てしない疲労と、い拒絶だけがあった。
「あんたは昔からそうだ。いつも自分の都だけでを投げて寄こす」 「誠さん、私は謝りたいんだ。あのの示談、残りの百万を、ちゃんと支払いたい。利息もつけて百万だ。それを受け取ってくれれば、示談は成する。由紀さんにも、もう昔の類を引っ張りすのをやめるよう、説得してほしいんだ」
私は必だった。 誠さえ納得してくれれば、由紀は引く。 被害者本が「もういい」と言えば、美智子だってこれ以騒ぎてる義名分を失うはずだ。
だが、誠のから返ってきたのは、私の予を根底から覆す言葉だった。
「俺は、あんたに謝ってほしくなんかない」 「……え?」
「もらない。百万だか百万だからんが、そんな、今更受け取れるか」 誠はかないを、でそっと押さえた。
「俺はな、さん。かけて、やっと諦めたんだよ」 誠の声が、かすかに震えていた。
「事故の直は、あんたを殺してやろうとった。
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現を止めなかった藤原も、あんたも、も、全部燃やしてやろうとったよ。だがな、裁判を起こすも気力もなかった。はもうかない。子どもはまださかった。きていくためには、このかないを受け入れて、できる仕事を探すしかなかったんだ」
誠は自販のたい鉄板に背を預けた。 「この、俺がどれだけ惨めないをしてこので警備員やってきたか、あんたに分かるか? 片しか使えないからって、若いドライバーに鳴られ、銭を投げつけられ……それでも、俺は『これが俺のだ』って、自分を納得させてきてきたんだ」
「誠さん……」
「それをな!」 誠の声が、初めて鋭く尖った。 「あの女は……由紀は、俺が臓の術をした途端、またあの事故のことをほじくり返し始めた。『あなたがこんな体になったのは、社のせいだ』『ちゃんとした補償も受けずに、このままなせるわけにはいかない』ってな」
誠の顔が、苦渋に歪む。 「冗談じゃない。俺は、もう被害者の顔をしてきていくのは嫌なんだよ! のに昔の示談や診断を並べられて、毎毎、事故ののことをいさせられる……! 由紀がやってるのは、俺のためじゃない。あいつ自が、過の悔しさに囚われて狂ってるだけだ!」
息が止まりそうだった。 誠は、復讐を望んでいなかった。
それどころか、過を暴きてようとする妻のに、激しい苦痛をじていたのだ。
ので、黒い計算が猛スピードで回転を始めた。
——使える。 この男の絶望は、私にとっての武器になる。
誠が追及を望んでいないのなら、由紀のはただの独善だ。 被害者本が望んでいない補償を、妻が勝に喚き散らしているだけだ。 その事実を突きつければ、由紀は孤する。 そして、その勝な暴に加担している美智子も、自分の違いに気づくはずだ。
「誠さん、よく分かった」 私は誠の肩にを置こうとした。 誠はを捩り、そのをたく払いのけた。
「触るな」 誠の徹な声が響いた。 「俺が言いたいのはつだけだ。度と、うちの女にづくな。あんたがをチラつかせるから、由紀は余計に固になるんだ。過を清算したいなら、弁護士でもてて、類枚郵送して終わりにしろ。俺たちの活に、これ以で踏み込んでくるな!」
交代の警備員がづいてくるのが見えた。 誠はサングラスを乱暴にかけると、私の横を通り過ぎ、再び駐の誘導へと戻っていった。
「オーライ、バックします……オーライ」 片だけで誘導灯を振る誠の背を見つめながら、私の胸のにあったのは、罪悪ではなかった。
奇妙な揚だった。 これで、勝てる。 由紀の暴を止める決定な言葉を、私はに入れたのだ。
そのの夕方、私はデイサービスの裏ではなく、由紀の自宅アパートを突き止めて待ち伏せした。