"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第10話
あんたから遣い恵んでもらって、墓まで嘘を持っていく義理なんざねえ」
「……いくら欲しいんだ」 私は震える声で言った。 「百万円ある。今すぐを揃えて払う。それで、あの記録を渡してくれ」
藤原は、数秒の、信じられないものを見るような目で私を見つめた。 やがて、その元が歪み、腹の底から絞りすような嘲笑が漏れた。
「ヒヒッ……カッカッカッ! 百万? おいおい、どこから引っ張ってきただ? 奥さんに隠れてコソコソ貯め込んでた退職の借りか?」
藤原はパイプ子からちがると、玄関のドアを乱暴にけ放った。 たい夜が、部ののゴミをカサカサと揺らす。
「帰れ」 「藤原さん!」 「警察にきたきゃけよ。労基署でもどこでも訴えろ。俺はんで、あんたの直サイン入りの報を持ってしてやるからな」
藤原は私の胸元を突き、へと押し戻した。 そして、鉄の扉を閉める直、私の顔をじっと見据えて、く呪うように呟いた。
「あんたが本当に怯えてるのは、警察でも賠償でもねえよ。奥さんに……あの綺麗な奥さんに、あんたが本当はどんな浅ましいかられることだろ」
バタン! い属音が鳴り響き、鍵が内側から乱暴に回された。
私は暗い踊りに、取り残された。 藤原の言った言葉が、ので何度も何度も反響する。
広告
『あんたが本当はどんな浅ましいかられることだろ』
違う。 私は族を守るために必だっただけだ。 会社を守るために、あのは仕方がなかったんだ。 誰だって、あのになれば同じことをしたはずだ。
そうので叫びながら、私は夜の階段を転げるように駆けりた。
翌朝、私は勤簿に『私用』の札を掛け、品川区内にある型商業施設の駐へと向かった。
昨夜、藤原の団をびした、興信所を使わずに誠の居所を突き止める方法をいしたのだ。 由紀が勤めていたデイサービスの駐に止まっていた送迎のフロントガラス。そこに置かれていた『隣契約駐覧』の管理会社名。 その管理会社が管轄している現ので、齢の男性警備員が常駐している所。
歳の元経営者の勘だけが、無駄に冴え渡っていた。
午。 たいビルが吹き抜ける平面駐。 黄い反射ベストを着て、い袋をはめた男が、入庫してくるミニバンの誘導をしていた。 「オーライ、オーライ……はい、ストップです。バックします」
をほとんど使っていない。 男はだけで誘導灯を器用に操り、が止まると、ぎこちなくをげた。 そのは、常に黒い革袋に包まれ、肘から先が自然な角度で胸元に固定されていた。
誠だった。
ぶりのその姿は、私の記憶のにある精悍な旋盤の面をほとんど残していなかった。 作業着の背はさく丸まり、キャップの奥から覗く側部は真っだった。 だが、あののかなさが、紛れもなく彼であることを残酷なまでに証していた。
私はにづいた。 「……さん」
誠は次のを誘導しようとして、私の声に気づき、きを止めた。 ゆっくりと振り返る。 褪せたサングラスをした誠の目が、私を捉えた。
最初は怪訝そうな顔だった。 だが、秒、秒とが経つにつれ、誠の表から切のが消え失せていった。
「……さん、ですか」
静かな声だった。 声でも、み節でもない。ただ、放置されていた械の錆を擦るような、乾き切った声。
「し、話せないだろうか。分でいい」 誠は周囲を見渡した。 「勤務ですよ。持ちをれるわけにはいきません」 「頼む。なことなんだ。君の、これからの活に関わる」
誠はさく息を吐き、誘導灯のスイッチを切った。 「あそこの自販の横なら、角になります。分だけです」
自販の裏の狭いスペース。 缶コーヒーの甘ったるい匂いと、の排気ガスが混ざりう所。 私は周囲を警戒しながら、誠のにった。 目のにつと、誠のの自然さがより層際つ。
指先が内側に固まり、まるで枯れのようにかない。
「由紀さんから、聞いているか?」 私が尋ねると、誠は線を元のアスファルトに向けたまま答えた。