みかん小説
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"妻は毎晩八時、私を家から追い出す" 第4話

玄関のドアが閉まる音がした。 のに、針を落としても聞こえるような沈黙が落ちる。

私はネクタイを緩めようと首元にをやったが、指が震えてうまく解けなかった。 「……美智子。あいつが何を吹き込んだからないが、あれは昔の話だ。事故の示談は、当藤原と法律の専を入れて、ちゃんと解決したはずなんだ」

言い訳が、乾いた唇から滑り落ちる。 美智子は背を向けたまま、シンクの縁に両をついていた。その背が、かすかに震えている。

やがて、彼女はゆっくりと振り返った。 その顔には涙の跡つなく、ただ暗い穴のような虚無が広がっていた。

「ねえ、修さん」

美智子は、私の目をまっすぐに見据えて言った。

「、誠さんのがプレスに挟まれる……あの械のリミットスイッチが壊れてて、異音がてたこと」

喉の奥が、カチリと音をてて凍りついた。

「あなた、本当にらなかったの?」

「……るわけがないだろう」

私のは、考えるよりも先にいていた。 声がわずかに裏返りそうになるのを、奥歯を噛み締めて必に押し殺す。

「現の全管理は、全部の責任者だった藤原に任せていた。俺は経営者だぞ。営業にて、資繰りにり回っていたんだ。械の調子がいちいちどうだったかなんて、がってくる報を見なきゃわかるはずがない」

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ペラペラと言葉がてくる。 、親族にも、にも、そして美智子にも言い続けてきた『模範解答』だ。 景気の煽りを受け、無理な納期を押し付けられた町。 現の些細な見落としから起きた幸な事故。 そして、なる補償と取引止によって倒産に追い込まれた劇の経営者。 私はずっと、その物語の主公としてきてきたはずだった。

だが、美智子の瞳はしも揺らがなかった。 まるで、すでに答えをっている試験官のように、私の顔をじっと観察している。

「藤原さんのせい、なのね」 「当たりだ! あいつが現のトップだったんだからな。俺は事故の報を聞いて、病院に駆けつけて……をげた。誠さんにも、あの由紀さんにもだ。それなのに、あいつらは今になっておに何を吹き込んだんだ? を請りに来たんだろう!」

語気をめることで、自分のの奥底でざわめく罪悪を塗りつぶそうとした。 鳴れば、美智子は引くはずだった。 いつだってそうだった。が傾いたときも、自宅を売却して今の狭い建売宅に引っ越したときも、私が「おには分からない苦労がある」と声を荒らげれば、美智子はいつも俯いて黙り込んでくれたのだ。

けれど、今の美智子は歩も退かなかった。

「……もういいわ」

く息を吐きすと、美智子はダイニングテーブルののえた湯呑みを片付け始めた。

その作は械で、まるでそこに私がしていないかのようだった。

「おい、美智子。話はまだ終わってないぞ」 「私は、質問に答えてもらっただけよ。あなたが『らなかった』って言った。それで分」 「何が分なんだよ!」 「疲れたの。は起きだから」

美智子は私の横を通り過ぎ、寝へと向かった。 ガチャリと、内側から鍵の閉まる音がした。 リビングに残された私は、え切った空気のでち尽くすしかなかった。

その夜、の結婚活で初めて、私はリビングのいソファで夜をかした。 掛け布団もさず、着古したスーツの着を胸元まで引きげ、暗い井を見つめ続けた。

喉が異常に渇く。 胸の奥に、鉄の塊をみ込んだような鈍い痛みが居座っていた。

らなかった? 嘘だ。 っていた。

のあのの曜。 藤原が脂ぎった顔で事務所に駆け込んできて、机のに叩きつけた修理見積。 『社、番のプレス、ブレーキの油圧が抜けてます。今すぐ止めないと、いつスライドが勝に落ちてくるか分からない』 そう訴える藤原の胸ぐらを掴み、鳴りつけたのは私だ。 『今止めたら、のラインが止まるんだぞ! 違約でうちが潰れてもいいのか? 今週の納品が終わるまで、騙し騙し回せ!』

あのの私の鳴り声が、の奥で々しく蘇る。

そしてその、誠の絶叫がに響き渡ったのだ。

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