"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第16話
「それでも、術を受ける?」
病の計の秒針が、カチカチと回、を刻んだ。
妹は震えるで目元の涙を拭った。 何度も、何度も、く息を吸い込んだ。 そして、腫れがった腕のシャントをそっとで押さえながら、私に向かってをげた。
「……受けます」 声は震えていたが、芯があった。 「お姉ちゃんの体を、半分もらいます。……度と、無駄にはしません」
術当の朝は、驚くほどれていた。
術ので、術を着た私がストレッチャーに横たわっていると、隣のレーンに妹が運ばれてきた。 互いに点滴スタンドを繋がれ、髪を織布のキャップに収めた姿。
目がった。 妹は何かを言おうとしてをけかけたが、私はさく首を横に振った。
謝の言葉も、傷な台も、いらなかった。 ただ、互いの覚悟を確認するように、度だけ微かに頷きった。
自ドアがき、緑の術へと吸い込まれていく。 無質な属の匂い。 響き渡る図の規則正しい子音。
「佐藤由紀さん、麻酔のマスクを当てますね。ゆっくり呼吸してください」
酸素のたい触が腔を通り抜ける。 界が急速に狭まり、井の無灯のがく溶けていく。
私の体の部が、妹へと渡る。 けれど、私の魂も、私のこれからのも、何つ奪われはしない。
い暗に落ちていく瞬、私の胸のにあったのは、かつてないほどの静かな誇りだった。
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術の回復は、驚くほど順調だった。
脇腹に刻まれたセンチの傷痕は鋭く痛んだが、術目には点滴スタンドを押して病棟の廊を歩けるようになった。 クレアチニンの数値も定し、残ったの腎臓が、私の体をで支える準備をえていた。
妹の体も、私のの腎臓を拒絶することなく受け入れたという。 術すぐに尿が始め、妹を苦しめ続けた尿毒症の数値は、劇に改善に向かっていると主治医から聞いた。
目の朝、私は私に着替え、さなボストンバッグに荷物を詰めた。
ナースステーションで退院続きを済ませ、妹の病があるフロアを訪れた。 病のドアは、半分いていた。
を覗くと、ベッドのに腰掛けた妹が、窓からの朝を浴びながら、で丁寧に洗濯物を畳んでいた。 かつてのように「痛い」「苦しい」と喚き散らす姿は、どこにもなかった。 サイドテーブルには、減塩の栄養指導パンフレットと、退院の薬スケジュール表が几帳面に並べられている。
私はドアをノックしなかった。 声をかけることもしなかった。
ただ、その背を数秒見つめ、さく息を吐いた。
もう、私の役目は終わったのだ。 あのは、あのの力で、しいを歩き始めている。
私は踵を返し、エレベーターへ向かった。
病院の正面玄関をると、初のが吹き抜けていった。
つない青空が、どこまでもく広がっている。 タクシーに乗り込み、き先を告げた。
「あの、緑町の、古い宅まで」
私の本物のへ。 私の、静かで自由な常へ。
術から、半が過ぎた。
の気配がまる、私は定期検診のために久しぶりに学病院のドナー来を訪れていた。
採血と検尿を終え、医師から「数値は極めて良好。もうに度の検査で分です」と太鼓判を押され、診察をた。 会計へ向かう途、ふといって、連絡通を通って本館の透析センターの横を通り抜けた。
そこにはもう、妹の姿はなかった。 当然だ。妹はもう、透析患者ではないのだから。
ふと、来の待ロビーの隅にある自販売ので、見覚えのある柄な女性の姿が目に入った。
トレンチコートを着て、スニーカーを履いた妹だった。 処方薬の入ったい袋を抱え、温かいお茶のペットボトルを買おうと銭を数えている。 頬には自然な赤みが差し、背筋がすっきりと伸びていた。
「真理」
声をかけると、妹は驚いたように振り返った。 私の姿を認めると、瞬だけ目を見張り、それから、気まずそうに、けれど穏やかに目を細めた。
「……お姉ちゃん。検診?」
「ええ。順調だって。あなたは?」
「私も。クレアチニン、1.1までがったわ。先が、奇跡みたいに相性がいい腎臓だって」
妹は自分の腹部を、コートのからおしそうに撫でた。