"「母を助けないで」腎臓提供の前日、十五歳の甥は私に縋った" 第7話
たい気が、デニム越しにお尻へ伝わってくる。
「の、見てきたよ」 私の言葉に、拓が息を止めた。
「蔵庫のメモも、ベランダのシーツも、机のの模試の結果も。全部、見た」
拓は唇をく噛み締め、線を面に落とした。 握りしめた拳が、くなるほど震えている。
「……る?」 蚊の鳴くような声だった。 「僕が、お母さんの世話を放りして逃げたこと。お母さんのこと、助けないでって言ったこと。……親孝だって、る?」
「るわけないでしょ」 私の声が、わず尖った。 「なんであなたがられなきゃいけないの。拓、あなた、自分が何をしてきたか分かってるの? あれは、がいたって音をげる仕事だよ。それを、たったで……学のあなたが、なんで全部背負わされてるの」
拓の瞳から、粒の涙がぽろぽろと零れ落ち、砂利のに黒い染みを作った。
「だって……僕しかいないから」 震える声が、嗚咽に変わっていく。 「僕がやらなきゃ、お母さんんじゃうから……。お母さん、透析から帰ってくると、いつも真っ暗な部で泣いてるんだ。『もう嫌だ、こんな体できていたくない』って。だから、僕がちゃんとしなきゃダメなんだって……僕が役にたなきゃ、お母さん、消えちゃうとって……」
「拓」
「でもね、おばさん」 拓は顔をげ、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、私を真っ直ぐに見つめた。
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その瞳に宿っていたのは、恐怖だった。 母親に捨てられる恐怖ではない。もっとい、もっと歪んだだった。
「僕……怖かったんだ」 「何が?」
「お母さんが、元気になっちゃうのが」
拓のからた言葉に、私は胸を突かれた。
「お母さんが元気になったら、僕を直さんのところに捨てるつもりだった。それはすごく怖かった。でも……それ以に怖かったのは……」 拓は自分の胸ぐらを、引きちぎるようにく握りしめた。
「お母さんが元気になったら……僕、もう『お母さんの役につ子供』じゃなくなっちゃうんだ」
息が止まりそうになった。
「僕、勉もできないし、友達もいないし、部活もやってない。学にっても、のはずっと塩分と血圧のことばっかりで……普通の会話なんて、何つできないんだ。僕から、お母さんの介護を取ったら、何が残るの? 僕、空っぽなんだよ!」
喉の奥から、絞りすような叫びだった。
「お母さんが元気になって、『もうあなたの世話はいらないわ』って言われたら……僕、どうやってきていけばいいのか分からないんだよ! だから……のどこかで、っちゃったんだ……。お母さんがずっと病気のままでいてくれたら、僕はずっと、必とされるんじゃないかって……!」
拓はそのに崩れ落ち、砂利に額を擦り付けるようにして激しく泣き叫んだ。
「僕、最だ! 母親の病気が治らないことを願うなんて、のクズだ! ねばいいのは僕の方なんだよ!」
胸が張り裂けそうだった。 私は膝をつき、え切った拓の体を、両腕でく抱きしめた。
「違う、違わないよ拓!」 細い背が、刻みに痙攣している。 折れそうなほどい、歳の肩。
「あなたがクズなわけないでしょう! そうやってあなたを追い詰めたのは、真理よ! あの子が、あなたを共犯者にしたのよ!」
病気の母親と、それを介護することでしか自分の価値を見せなくなってしまった子供。 真理は、拓のを奪い尽くしたで、最はそのを振りほどいて逃げそうとしていた。 そして拓は、その鎖がれることすら恐れるほど、く傷つけられていた。
「もういいの」 私は拓のを撫でながら、元で静かに、けれど絶対に揺るがない声で言った。
「もう、塩分の計算もしなくていい。シーツの血も洗わなくていい。血圧の記録も、全部捨てていいの。……あなたは、誰かの命を背負うためにまれてきたんじゃない」
拓は私のコートをく掴み、子供のように声をげて泣き続けた。 たいが、のを吹き抜けていく。
私のので、迷いは完全に消えっていた。
総病院の個病棟。 扉のガラス窓から覗くと、真理はベッドので背を向け、微だにしていなかった。 サイドテーブルには、付かずの病院がめ切ったまま置かれている。
ノックもせず、私はドアをけた。