"特上寿司と、消えた妻の半年" 第12話
そして、私の席のに置かれていたのは――
い皿が枚。その央に、苔も巻かれていない、えた米を丸めただけの、のひらにすっぽり収まるほどのさな梅干しのおにぎりが、たった個だけ置かれていた。
「……お母さん、これは何ですか?」
私が尋ねると、よしえは鰻のに贅沢に椒を振りかけながら、クスクスと喉を鳴らして笑った。
「昨、私の通院の頼みを断って、答えした『バツ』よ」
隣で公平が、ビールを吹きしそうになりながら笑いした。
「ぶっ……! ギャハハ! 母さん、子供のお仕置きみたいなことすんなよ〜!」
公平はそう言いながら、何のためらいもなく分い鰻の片を箸で切り分け、のへ放り込んだ。
笑いながらべる夫の姿を、私はただ見つめていた。夫は母親の嫌がらせを止めることもなく、自分の箱を私の方へ寄せることもしなかった。
よしえはお吸い物を優雅にすすり、酷な目で私を値踏みした。
「いい、麻子さん。嫁というき物はね、べ物で分からせるものなのよ。でどれだけ言っても聞かない気な嫁にはね、お皿のでの程を教え込むの。私も昔、お姑さんにそうやって厳しく躾けられて、の嫁になったんだから」
自分が過に義母から受けた理尽な虐待を、被害者としてむどころか、嫁を支配するための「正しい伝統」
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として内面化し、次の世代の嫁へと暴力の連鎖を受け渡しているのだ。
「お皿で分からせる、ですか」
「そうよ。しっかり反省して、からをげたら、ちゃんとしたおかずをしてあげるわ。反省しないうちは、そのおにぎり個で分でしょう?」
減らす、抜く、そして完全に差別化する。
よしえのは、着実に最終段階へと移していた。
私は無言で、たくくなった梅干しのおにぎりをに取った。塩の辛さだけが内に広がり、で胃袋へと消えた。皿を台所へ運び、で流す私の背に向かって、よしえの「あら、もうべちゃったの? お利さんねえ」という嘲笑が突き刺さった。
午の差しの、私は財布だけをポケットに入れ、所の児童公園のベンチに座っていた。
コンビニへけば、温かいお弁当も唐揚げもいくらでも買える。
だが、ここでをして空腹を満たしてしまえば、「庭内での虐待の事実」を自分自で覆い隠し、何事もなかったかのようにあの卓へ戻ることになってしまう。
それは、よしえの狂った支配を追認することと同じだ。私は胃の痛みに耐えながら、何も買わずに自宅へ戻った。
夕方、台所のゴミ箱をまとめている際、捨てられていた鰻の包みが目に入った。
創業を誇る老舗の級鰻。特で千百円。
で万円くになる。
万円の暮らしを自称する義母が、息子に万円の鰻を奢り、嫁にはえた米粒を投げ与える。
そして、その景を見て、実の夫が腹を抱えて笑っている。
あのの公平の、品に歪んだ笑顔。
それを見た瞬、私ので何かが、音をてて断ち切れた。
その夜、を過ぎてよしえが自へ引きげたのを確認し、私は寝のドアを静かに閉めた。
ベッドので、公平はスマートフォンでゴルフのスイング画をに眺めていた。部のには、まだ微かに昼の鰻のタレの匂いが残っているような気がした。
「公平、し話があるの。スマホを置いて、私の顔を見てくれない?」
公平は面倒くさそうに顔をげたが、端末はからさなかった。
「何だよ。疲れてるんだけど」
「あなた、今のお昼のこと、本当に何ともわなかったの? で特の鰻をべて、私には苔も巻いていない梅干しのおにぎり個だけだったのよ」
公平は先でさくせせら笑った。
「嫌ならさ、自分でって好きなもん買ってえばよかったじゃん。お、持ってんだろ?」
「問題はそこじゃない!」
私の喉から、自分でも驚くほどく鋭い声がびした。公平がビクッと肩を震わせる。
「お母さんが私を図に差別して虐げていること。
そして、夫であるあなたが、その真横で緒になって嘲笑っていたこと。そのとしての卑しさを言っているのよ!」