"特上寿司と、消えた妻の半年" 第10話
「お肉は全部、公平にべさせたわよ。で汗垂らして働く男のには、スタミナが必なんだから」
「……私も、でフルタイムで働いていますけれど」
わず反論の言葉がをついてた。するとよしえは、嘲笑を浮かべてを鳴らした。
「事務員でしょう? の効いた部で子に座って、卓をパチパチ叩いているだけじゃないの。公平の営業回りの過酷さと比べものになるわけがないでしょう。私はね、以、お父さんのお弁当を毎朝欠かさず作ってきたのよ。で稼いでくる男の健康を支えるのが、庭に入る女の務めなの。あなたの片の仕事なんて、その次でいいのよ」
よしえの歪んだ序列のでは、男の仕事が最位にあり、そのに男に奉仕する女の事があり、番底辺に「嫁の仕事」が位置づけられていた。
ソファに転がっていた公平が、テレビのお笑い番組を見て「ギャハハ!」と声をげて爆笑した。
私たちの会話が聞こえていないはずがなかった。それでも公平は、妻のに肉のない鍋が置かれている景をりながら、度たりともこちらを見ようとはしなかった。
座って卓を叩いているだけ。
、会社の財務を預かり、円の狂いも許されないプレッシャーので働き続けてきた私の誇りは、この無な老婆の言で、いとも容易く踏みにじられた。
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私が言葉を失ってち尽くしていると、よしえが突如として声のトーンをたく鋭く尖らせた。
「それからね、麻子さん。私、あなたに言いたいことがあるのよ」
よしえは背筋をピンと伸ばし、私を射抜くように睨みつけた。
「初枝から話がかかってきたわよ。『麻子さんに悪して、ご飯をなく盛ってるんじゃないでしょうね。見ていてだったわよ』ってねえ! あなた、あの子に余計な告げを吹き込んだでしょう!」
臓がねがった。初枝さんが約束通りよしえに苦言を呈してくれたのだ。だが、よしえのでは、それがすべて「嫁の狡猾な告げ」として処理されていた。
「何も言っていません! 初枝さんは、ご自分で卓の様子を見て……」
「々しい嘘をつくんじゃないわよ! 台所ででコソコソ話して、帰り際に玄関でこっそり話番号まで交換していたのを、私が見逃すとでもっていたの!? 内に告げして姑を陥れようとするような性根の腐った嫁にね、誰が等なお肉なんてべさせるもんですか! しっかり反省しなさい!」
肉を抜いたのは、偶然の配分ミスなどではなかった。初枝さんに実態をられたことに対する、計画な「報復」だったのだ。
よしえにとって、事実がどうであるかなど関係ない。嫁に「罰」を与え、屈させるための実がありさえすれば、何でもよかったのだ。
方が増えれば増えるほど、私の皿のの料理は減らされる。このは、そういう狂った論理で支配されていた。
私はソファへ歩み寄り、テレビを見ている公平の目のにった。
「……ねえ、聞いてた? 私の分のお肉、枚も残っていないのよ。お願いだから、お母さんに言言ってよ。助けて……」
公平はテレビの画面から線を切さず、うっとうしそうにきなため息を吐きした。
「肉くらいで、そんなげさに騒ぐなよ。それくらいしろって」
「お肉のことだけじゃないのよ! お母さんは私に罰を与えるために……」
「チッ、うるせえなあ!」
公平は苛たしげにリモコンをテーブルに投げつけた。
「飯くらい、文句があるなら自分でコンビニって好きなもん買ってこいよ! 男が疲れて帰ってきてるに、女同士のくだらない飯の喧嘩に巻き込むんじゃねえよ!」
度目の「助けて」だった。
返ってきたのは、「それくらいしろ」という、度目よりもさらに酷で暴力な拒絶だった。
卓のよしえは、満そうに湯呑みをに運び、勝利を噛みしめるような笑を浮かべていた。息子が完全に自分の方であることを確信した顔だった。
私はダイニングに戻り、え切った鍋の底から、茶く煮詰まった豆腐と菜を取り皿に移した。
に運ぶと、醤油の塩辛さと砂糖の甘みだけが舌に刺さり、喉を通らなかった。