"特上寿司と、消えた妻の半年" 第5話
「母さんも悪気があって言ってるんじゃないんだからさ。麻子、飯くらい自分の分は台所で適当にどうにかしろよ」
私は喉の奥で息を殺し、「……すみません」とだけさく呟いて、え切ったおかずを子レンジで温め直した。
賃の部分を支払い、自分のクレジットカードで買ってきた材で作られた料理をにして、なぜ私がをげて謝罪しなければならないのか。その理尽の構造に、当の私はまだ確な言葉を与えることができずにいた。
期限の切れた居候活は、そこからさらに湿な形へと姿を変えてエスカレートしていった。
よしえの攻撃の矛先は、私の格や事のやり方、そのものへとじわじわと侵していった。
最初は、夫をくしてまだ余りの老が、の傷のやりを見失ってつ当たりをしているのだろうと、れみの目で見ようとした。だが、それは甘いに過ぎなかった。
めいたが吹き始めたある曜の朝、私は平の仕事でが回らなかった呂の徹底なカビ取り掃除をしていた。ゴム袋をはめ、塩素系の洗剤でタイルの目を擦り、湯で流して換気扇を回す。汗だくになって洗面所のに膝をつき、雑巾で滴を拭きげていた、背で気配がした。
「そこ、昨私が綺麗に掃除したんだけど」
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振り返ると、よしえが寝着のから羽織を羽織り、仁王ちで腕を組んで私を見ろしていた。
「私がせっかく掃除したところを、わざわざ当てつけのようにやり直すのね。私の掃除の仕方が汚くて気に入らないって言いたいの?」
「いえ、そういうつもりでは……平はが回らないので、週末にまとめて磨いておこうとっただけで……」
私が必に弁解しようと言葉を紡ぎかけると、よしえは顎をしゃくり、酷に遮った。
「じゃあ、どういうつもりなのよ?」
よしえは私の答えを待つことすらなく、踵を返してリビングへ戻ると、テレビの音量を障りなほどきくげた。
やっても文句を言われ、やらなければ怠だと責めてられる。
どちらを選んでも罵倒されるのであれば、このにおいて、私のに「正解」など最初からしないのだ。ちがって洗面所のの隅を見つめると、先週からこびりついていた黒ずみが、そのままの形で残っていた。よしえがに掃除をした痕跡など、どこにもありはしなかった。
洗濯のルールにおいても、よしえは骨に境界線を引いてきた。
ある平の朝、勤に洗濯を回そうとフタをけると、洗濯槽のには公平のワイシャツと着、そしてよしえの肌着だけが然と入れられており、私の着ていたブラウスやスカートは、脱所のプラスチックかごの底に、汚物のように避けられて取り残されていた。
「ちょっと、麻子さん。公平のものと緒に、あなたの洗濯物を洗わないでちょうだいな。うちはね、昔から『の者』の類は、『の者』のものだけで洗う決まりなのよ」
の者。
その排な文字のに、私の居所は爪先ほども含まれていなかった。
結局、私は自分の類だけを、夜遅くに帰宅してから別のコースで回すことを余儀なくされた。代も気代も倍かかる。その余分な費を全額支払っているのが誰であるかもらずに、よしえは勝ち誇った顔をしていた。
分けられたのは、類という布切れだけではない。このという閉ざされた空ので、私だけがとしての尊厳の境界線の側へ、酷に弾きされているのだという現実を、私は肌にしみて理解し始めていた。
料理の席でも、それは同様だった。
平の夜は帰宅が遅くなるため、せめての夕くらいは栄養のバランスを考えた料理を振るおうと、私は週末の買いしと調理を欠かさず引き受けていた。
ある曜の夜、健康診断で血圧のさを指摘されていた公平の体を気遣い、塩分と醤油を控えめにして、昆布と鰹節の然汁を利かせた筑煮を作って卓にした。
よしえは箸の先で蓮根をひとつつまみ、舌先に乗せた瞬、骨に顔を歪めて皿のへ箸を叩きつけた。