"特上寿司と、消えた妻の半年" 第3話
ある晩、仕事から帰宅した公平が脱ぎ捨ててソファに放り投げていたスーツの着を、私が拾いげて製ハンガーに掛け、ブラシを当てていると、それを見ていたよしえが腕を組み、満そうにを鳴らした。
「そうそう。麻子さんはね、で稼いでくる公平のの回りの世話をするために、うちに来てくれたんだものね。妻としての本分を忘れないでちょうだいね」
うち、という言葉の響きが、喉の奥に骨のように引っかかった。
ここは、公平の名義で借りているとはいえ、賃の半と活費のくを私の料から拠している部だ。決してよしえのでもなければ、私がを寄せるための庇護の所でもない。
しかし、よしえの歪んだ認のでは、する息子が構えたはすなわち自分自のであり、そこにいる嫁は、息子の適な活を維持するための無償の政婦に過ぎないのだろう。
今にしてえば、同居が始まってもない頃のあの何気ない言のに、よしえというの本質と傲さのすべてが凝縮されていたのだ。
それでも、当の私は、せっかく始まった共同活なのだから、自分のできる限りの配慮と誠を尽くそうと努めていた。
平の昼、よしえはでこのマンションに残される。腰のった代の女性が、きりで毎の昼を準備するのは億劫なもあるだろう。
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そう考えた私は、リビングに置いて族共用で使っていたiPadの注文アプリに、私名義のクレジットカード報を決済用として登録した。
平の昼に、のお弁当や温かい蕎麦を頼む程度なら、に数千円程度の費で済むはずだ。計のしになればという、ささやかな善だった。
アカウントはタブレット専用に規で取得したフリーメールで登録し、注文完の通も領収のメールも、すべてタブレットの画面だけで完結するように設定した。
「お母さん、お昼ご飯を作るのが面倒なは、この画面から好きなおを選んで注文してくださいね。私のカードから引き落とされるようにしてありますから」
画面を覗き込んだよしえは、皺の寄った目元を細め、これ以ないほど嫌の良さそうな笑みを浮かべた。
「まあ、麻子さん、本当に気の利くお嫁さんねえ。悪いわね、平の私のお昼ご飯のだけ、ありがたく使わせてもらうわ。や休みのの分はね、配達員さんが届けてくれたに、私が自分のお財布から現で払うから配いらないわよ」
この何気なく差しした枚のカードとアプリが、やがてどのような悪の具へと変貌していくのか。そのの私には、像する由もなかった。
約束の半というは、あっというに過ぎっていった。
酷暑のが過ぎ、が吹き抜けるようになったの最初の曜。夕の器洗いを終え、リビングでお茶をんでいたタイミングを見計らい、私はを決して約束の話題を切りした。
「お母さん。にいらっしゃってから、ちょうど半が経ちましたけれど……そろそろ、あちらのご自宅へ戻られるご準備やご予定は、どう考えていらっしゃいますか?」
座卓に向かいっていたよしえは、にしていた湯呑みをコトンとい音をてて置き、げさに肩を落としてい溜息を吐きした。
「麻子さん、あなた、何をたいことを言っているの? 今さらこの歳で、あんな広いに暮らしだなんて無理に決まっているでしょう。こっちはね、夜になると今でもお父さんの霊気配がして、怖くても眠れないんだから」
私は助けを求めるように、横に座る公平の横顔を見つめた。
だが、公平はテレビのリモコンをカチカチと無にいじり回し、線を画面の野球継に固定したまま、私と目をわせようとしなかった。
「……まあ、あっちのは空きのままで置いてあるわけだし、母さんもまだ寂しいんだよ。麻子、もうちょっとこのままでいいだろ」
夫の癖は、いつだって「母さんも悪気はないんだから」だった。
庭内で何か問題がじるたび、義母が勝な儘をにするたび、公平はこの言で考を放棄し、すべての議論を制終させてきた。