"四十九日の追放、母の隠し遺言" 第2話
席の数に入らないのよ」
久代の言葉は、まるで汚い雑巾でも払い落とすかのような残酷さに満ちていた。 彼女は元のお膳をつま先で突くようにしながら、さらに言葉をねた。
「その煮物もげてちょうだい。お母さんの付けを真似したかなんだからないけれど、しょっぱくて誰もべないわよ。見ているだけで胸焼けがするわ」
「これは……母に教わった通りに、今朝から汁を取って煮ました。母が番好きだったです」
「頼んでないわよ、そんなもの!」 久代が甲く叫んだ。 「さあ、く持ってちなさい! 親族の皆さんに失礼でしょうが!」
座敷の空気が耐えがたいほどに張り詰めたその、座敷の端に座っていた若い男性が、たまらず膝を叩いてちがった。 親族の達也さんだった。私の母の弟の息子で、従弟にあたる代半ばの青だ。幼い頃からこの実によく遊びに来ており、母の介護がどれほど過酷だったかをで見ていた数ない方だった。
「兄さん、いくらなんでもそれはないだろう!」 達也さんは顔を真っ赤にして、に詰め寄った。 「もの、仕事を辞めてまで静伯母さんをで見届けてきたのは澄子さんだぞ! 兄さん夫婦はに回、正に顔をすかさないかだったじゃないか! それをの席で、台所へけだのをてけだの……のがないのか!」
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達也さんの叫びのような抗議に、親族の何かがさく頷く仕を見せた。 だが、は微だにしなかった。 あぐらをかいたまま、達也を射殺すような徹な目で睨みつける。
「達也、おは黙ってろ」 をうようない声だった。 「親の遺産と実の処分は、男である俺が決めたことだ。野の親戚がを挟む筋いはない」
「ですが、兄さん――!」
「黙れと言っているのが聞こえないのか!」 が座卓を拳で激しく叩いた。仕しの器ががたがたと音をてる。 達也さんは唇を噛み締め、りに拳を震わせながらち尽くした。
その異様な剣幕に、ののくに座っていた齢の女性が、恐る恐るをいた。 母の妹にあたる、よしえ叔母さんだった。今で歳になる柄な叔母さんは、喪の膝ので細いを震わせながら、か細い声を絞りした。
「さん……そんな言い方、およしよ。静姉さんが葉ので聞いていたら、どれほどしむか……」
はよしえ叔母さんの方へぎろりと首を向けた。 親族の老に対する敬など、そこには欠片もなかった。
「よしえ叔母さん。何か、俺のやり方に言いたいことでもあるのか?」
威圧なの線に晒され、よしえ叔母さんはさくを縮めた。胸元をぎゅっと押さえ、髪のを垂れる。 「いいえ……何でもない、のよ……」
座敷に、救いようのない沈黙がり積もった。 親族たちは誰もが線を畳に落とし、と久代の暴挙をただやり過ごそうとしている。 私はそれ以、誰も巻き込みたくなかった。
私は静かにちがり、漆塗りの角膳の両端を持った。 え切った里芋の煮物から、ほのかな醤油のりがちる。 「……失礼いたします」
誰に向けたともなく言だけ会釈を残し、私は座敷をにした。 背で、久代が「さあ皆さん、気を取り直して召しがってくださいな」とるい声を張りげるのが、襖枚を隔てて聞こえていた。
廊を抜け、を踏み入れた台所は、のがそのまま染み込んできたかのように底えしていた。 気も点けず、暗い板のに置かれた古い製スツールに、私はお膳を置いた。 勝のすりガラス越しに見える庭の々が、たいに煽られて揺れている。
私はスツールのに正座し、え切った板のの触を膝にじながら、割り箸を割った。 鉢の煮物をに運ぶ。 舌のに、濃いめの醤油と汁のが広がった。 母が脳梗塞で倒れ、半に麻痺が残ってからの、覚が鈍くなった母のために、何度も何度も作り直して辿り着いた付けだった。『澄子、今の煮物は美いねえ』と、自由なでスプーンを握りながら笑ってくれた母の笑顔が、暗がりのに浮かびがる。
目がくなり、奥歯をぎゅっと噛み締めた。