"四十九日の追放、母の隠し遺言" 第1話
線のい煙が、細く頼りなく井へと昇っていた。 。初のたいが、実の古い瓦根を絶えなく叩いている。 仏の座敷には、親族たちが座になって座っていた。読経を終えた寺の職が引き揚げ、張り詰めていた空気がわずかに緩んだはずのその所で、私――澄子(すみこ)は、畳の隅に正座したまま両を膝のでねていた。
歳になる私のは、の仕事と介護の々によって、節くれち、指先がひび割れていた。 母・静が歳で息を引き取ってから、今でちょうど。 病院から実へ連れ帰り、息を引き取るその瞬まで、私はこので母の背を擦り、寝返りを打たせ、えたを温め続けてきた。
座敷の座には、歳の兄・がどっかりとあぐらをかいている。その隣には、派な染め髪をきっちりと固めた兄嫁の久代が、喪の袖を気にしながら座っていた。のには、豪勢な仕し料理の折詰が並んでいる。 は湯呑みの茶を気にみ干すと、湯呑みを畳に叩きつけるように置いた。 ことん、と乾いた鈍い音が座敷に響く。 その音を図にしたかのように、兄嫁の久代がすっとちがった。 久代の細い目が、部の隅に控えていた私をたく射抜く。 そして、親族同が見守る静まり返った座敷ので、の差し指を真っ直ぐに私へと突きした。
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「澄子さん。はっきり言わせてもらうけれど、世話しただけの妹に、この実の取り分なんて文もないわよ」
甲い、属を擦りわせるような声だった。 座敷の空気が瞬にして凍りつく。親族の何かが息を呑む気配がしたが、誰も声をげようとはしない。 久代の言葉にわせるように、兄のが太い腕を組み、顎をしゃくった。 酒の匂いをわずかに漂わせた声が、苦しく畳をう。
「そうだ。男の俺が実もも、全部もらう。澄子、おは今週にてけ」
の線には、妹に対するなど微もじられなかった。そこにあるのは、邪魔な居候を追い払う主の横柄な傲さだけだった。 私はく息を吸い込んだ。喉の奥がカラカラに渇き、胸の奥底で何かが静かに軋む音がした。 だが、取り乱して声を荒らげることはしなかった。 、元の信用庫で預や為替の窓業務を務め、どんな理尽な客のでもを押し殺してをげてきた習慣が、私の体には染み付いている。
私は膝のでねていた指先をわずかにえ、兄の顔を見据えた。 線を逸らさず、静かにをげる。
「……はい、ていきます」
私のから漏れたのは、静まり返った座敷に染み入るような、かすかな、しかしはっきりとした承諾の言葉だった。
は眉をぴくりとかし、拍子抜けしたようにを鳴らした。 久代は満そうに端を吊りげ、勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが――このの兄夫婦は、まだ何もらなかった。 今この座敷で、親族たちの面で私に投げつけたその酷な言葉が、そっくりそのまま自分たち自のに返ってくることになるのを。 それも、今から数えて、ちょうどのことだということを。
「はい、返事が良くて結構だこと」 久代はわざとらしく両を打ち鳴らすと、私のへ歩み寄ってきた。 そして、私が母のために用した料理の膳を見ろし、あからさまに顔をしかめた。
「それじゃあ澄子さん、そのお膳を持って台所でべなさい。ここは親族の席よ。あなたみたいなが座る所じゃないわ」
座敷のたいが、障子の隙から吹き抜けた。 私は膳のに並んだ鉢を見つめた。 今朝のに起き、母の好物だった里芋と参、干し椎茸をじっくりと煮含めた煮物だ。母が元気だった頃、付けの塩梅を叩き込まれた、いの料理だった。
私はゆっくりと顔をげた。 「お姉さん。……私も、母の娘です」
「娘? ふん、何を言ってるのよ」 久代は先で笑いばし、両を腰に当てた。 「信に勤めて、さっさと辞めて実に転がり込んだ独りでしょう? 嫁にもかず、子供も産まないで、親のにぶらがっていただけのが、の親族面しないでちょうだい。