"十字の紙片と売られた生家" 第5話
結菜の声は震え、途でさくしゃくりげるような呼吸が混ざりました。
私ののひらに押し込まれたのは、く、ごわごわとした触りのある塊でした。
私は自分の線を、結菜のから自分ののひらへと落としました。
そこに載せられていたのは、聞の折り込みチラシをさく千切り、何度も何度も複雑に折り畳んだ切れでした。
その折り方は、子供の頃によく遊んだ折りのようでもありましたが、らかに図を持って、頑丈な文字の形になるように固く角がえられていました。
の端は、く指先で擦りわされたせいでしく擦り切れており、結菜の指の汗が染み込んで、わずかに湿り気を帯びていました。
文字の折り目は寸分の狂いもなく央で交差し、容易にはかないように端が隙にしっかりと差し込まれていました。
「結菜、この字に折ったは、体なに……?」
私の戸惑いのこもった問いかけは、あまりにもさく、掠れていました。
、が子のように塩にかけて育ててきた孫娘が、なぜこれほどまでに怯え、なぜこのような奇妙なものを私に託そうとしているのか。
結菜は私の質問にすぐには答えず、階の階段の方へと激しく首を巡らせました。
階からは、真由美の「健太、このゴルフバッグも持っていくの?」
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という甲い声と、健太の「それは現で買い直すから捨てていい」という無質な返答が聞こえていました。
の声を確認した結菜は、弾かれたように私の方へと顔を戻しました。
そして、私のをさらに骨がきしむほどく握りしめ、私ののすぐそばにまで顔を寄せてきました。
結菜のい吐息が、私のたいたぶをかすめました。
「お願い。今夜、みんなが完全に寝静まったら……必ずでけてみて」
結菜の囁き声は、張り詰めた糸のように鋭く、切迫したみを帯びていました。
「それと……の朝までに、印鑑と通帳は絶対に渡さないで」
結菜の指先が、私のの甲を爪がい込むほどく掴みました。
「絶対に、何があっても渡しちゃダメだからね……!」
結菜の瞳から、ついに筋の粒の涙がこぼれ落ち、私のの甲のにポタリと温かい染みを作りました。
その瞬でした。
階の廊から、トントンと荒々しいスリッパの音が響き、階段の最段の板がきしむ音が階にまで届きました。
「結菜ー! 帰ってるなら返事しなさい! 自分の部の段ボール、く詰めなさいよ!」
真由美の切り声が、階段を滑り落ちるようにリビングへと響き渡りました。
結菜の体が、まるで流を流されたかのようにビクッとねがりました。
結菜は私のを慌ててすと、に置いた通学鞄を素く抱え込みました。
そして、制のブレザーの袖で乱暴に自分の両目を拭い、ちがりました。
「……はい! 今きます!」
結菜は階に向けて、精杯平静を装った声を張りげました。
しかし、その声は微かに裏返り、震えを隠しきれていませんでした。
結菜はリビングの引き戸へと駆けす直、もう度だけち止まり、私を振り返りました。
その濡れた瞳は、私に対して「絶対に約束を守って」と、無言の祈りを叫んでいるようでした。
結菜は音をてて引き戸をけると、階段を駆けがっていきました。
トントン、トントンと軽やかな音が階へと吸い込まれ、やがて結菜の部のドアが静かに閉まる音がしました。
広なリビングには、再び苦しい静寂がい戻ってきました。
私は、革張りの子に座ったまま、を固く握りしめていました。
のひらのには、結菜から託された文字のい切れが、確かに収まっていました。
結菜の指先から移った温もりと、私ののたさが混ざりい、その切れはまるでき物のように、微かな鼓を刻んでいるかのようにじられました。
私はゆっくりとを持ちげ、指をほどいてのひらを見つめました。
チラシの裏側のい部分を使って折られた文字の切れ。
角が几帳面に折られ、結菜の必ないがそのさな体のに封じ込められていました。