"十字の紙片と売られた生家" 第4話
真由美は元に置いてあったシャネルのハンドバッグをに取ると、属の留めをパチンとらかに鳴らしてちがりました。
「それじゃあ、私たちは引っ越しの荷物の仕分けがあるから、階に戻るわね。お義母さん、実印と権利証、しっかり探しておいてくださいね」
真由美は瞥もくれず、踵のいスリッパをパタパタと鳴らしながら、にリビングをてきました。
健太もまた、帳を鞄に乱暴に押し込むと、私のを素通りして階段へと向かいました。
が階段を踏みしめてがっていく々しい音が、トントン、トントンと井を揺らしました。
やがて階の寝のいドアが、バタンときな音をてて閉まりました。
再び、広すぎるリビングに完全な沈黙が戻ってきました。
私は、テーブルのに取り残されたまま、指先をピクリともかすことができずにいました。
青磁の湯呑みのお茶は完全にめ、濃い緑が底に沈んで濁っていました。
、このでねてきたいの数々が、え切った空気のに溶けて消えていくようでした。
悔しさとけなさで、胸が張り裂けそうでした。
しかし、私の涙は滴も流れませんでした。
あまりの絶望のさに、涙すら涸れ果ててしまったかのようでした。
そのでした。
広告
リビングと廊を隔てる引き戸の隙から、シュルシュルと擦れるような、極めてさな音が聞こえてきました。
私はハッとに返り、玄関へと続く暗い廊の方向へとゆっくりと線を向けました。
引き戸が数センチだけ細くいていました。
そのわずかな隙から、青ざめた組の瞳が、怯えるようにこちらをじっと見つめていたのです。
その瞳の主は、になった孫の結菜でした。
制の紺のブレザーを着たまま、結菜は引き戸のにを潜めるようにしてっていました。
肩にはたそうな通学鞄を提げたままで、靴履きの先は、たい廊の板のに張り付いたようにいていませんでした。
結菜の頬からは完全に血の気が引いており、まるでのようにく透き通っていました。
唇はがかったをして、刻みにカタカタと震えていました。
結菜のきな瞳は、涙の膜を張ったまま、リビングの吹き抜けの井と、階へと続く階段の踊りを交互に、怯えたように見げていました。
階段のからは、健太と真由美がクローゼットをけ閉めするドタバタとした物音や、ガムテープを引き裂く乾いた音が断続に響いていました。
結菜は階からの物音を確かめると、音をてないよう靴の裏でを撫でるようにして、静かに引き戸を押しけました。
そして、リビングのへと忍びでを踏み入れてきたのです。
普段なら「ただいま、おばあちゃん!」とるい声を響かせてび込んでくるはずの結菜が、まるで夜盗のように息を殺していました。
結菜は私の座る掛けの子のにたどり着くと、に両膝を投げすようにして正座しました。
その勢いで肩からずり落ちそうになった通学鞄を、結菜はにそっと置きました。
そして、震える両を伸ばし、テーブルのに置かれていた私のえ切ったを、包み込むようにしてぎゅっと握りしめてきました。
結菜ののひらは、氷のようにたくなった私のとは対照に、汗ばむほどく照っていました。
しかし、そのさな両全体が、まるで激しい寒に晒されている鳥のように、ガタガタと絶えなく震えていたのです。
「おばあちゃん……これ、誰にも見せないで」
結菜のから漏れた声は、喉の奥から絞りしたような、かすれた囁き声でした。
結菜は私の目をまっすぐに見つめました。
そのきな瞳からは、今にも堰を切ったように粒の涙が溢れしそうになっていました。
結菜はポケットのにをもぐりこませると、何かいものを握りしめて取りしました。
そして、私ののひらを無理やりこじけるようにして、その物体を私ののにぎゅうぎゅうと押し込んできたのです。
「特に、パパとママには……絶対に内緒にして」