"十字の紙片と売られた生家" 第2話
健太のすぐ隣に座り、を綺麗に組んでいた嫁の真由美が、待っていましたとばかりにを乗りしてきたのです。
真由美はベージュの級なシルクのブラウスにを包み、入れのき届いたい髪を肩の横へと払いました。
その唇には、いピンクベージュのが完璧な輪郭を描いて塗られていました。
真由美はのように細めた目を私に向け、まるで泣き叫ぶ赤子をあやすかのような、わざとらしいほど柔らかな声をしました。
「お義母さんのためをってのことですよ」
その響きには、滴の温もりも含まれていませんでした。
真由美は膝のでねていた細い指先を優雅に解くと、首をかしげて見せました。
その線は私の目ではなく、私の髪や、着古したカーディガンの毛玉をあざ笑うかのように撫でていました。
「1でこんなに広いにいて倒れでもしたら、困るのは私たちですから」
真由美はそう言いながら、リビングの吹き抜けのい井や、壁に掛けられた夫の遺品である油絵へと線を泳がせました。
その差しは、まいを慈しむの目ではありませんでした。
産のチラシを広げ、坪単価を計算する業者のそれと全く同じ徹さを宿していました。
築とはいえ、都の主駅から徒歩分というにあるこのは、急激に価ががっていました。
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敷面積は坪を超え、庭も広く、の角という等です。
買いなどいくらでもつくはずの、莫な価値を持つ産でした。
真由美にとって、このは夫のいが息づく聖域などではなく、自分たちがで華やかな活を送るための「資源」に過ぎないのだということが、その瞥だけで痛いほど伝わってきました。
健太は真由美の言葉に満そうに度頷くと、元に置いてあった黒い本革のビジネスバッグへとを伸ばしました。
ジッパーをける属音が、静かな内に異様なほどきく響きました。
から取りされたのは、分いプラスチックのファイルバインダーでした。
バインダーには、とりどりの付箋が何枚も几帳面に貼られていました。
バサリ、と々しい音をてて、それがテーブルの央に放りされました。
青磁の湯呑みがその衝撃でさくカタカタと揺れ、緑茶の表面に細かな波紋が広がりました。
「老ホームはいくつか候補を選んでおいたから」
健太はそう告げると、バインダーのポケットから艶やかな沢のあるパンフレットを数枚抜き取りました。
そして、トランプのカードを配るようなつきで、私の目のに扇状に滑り込ませてきました。
滑り込んできたパンフレットの表には、見栄えのいい横文字の施設名が躍っていました。
私は震える線を、そのパンフレットの文字へと落としました。
そこに印刷されていた写真は、どれも無質ない壁に囲まれた、畳半ほどの狭いワンルームでした。
窓のには林の景が広がり、都からくれた梨や群馬のあいに位置する施設であることが、さなアクセス欄から読み取れました。
パンフレットに写るスタッフたちは、いかにも宣伝用といった貼り付いたような笑顔を浮かべていましたが、どこか気がじられませんでした。
「ここなら費用もかなり抑えられるし、母さんなら分すぎる広さだろ」
健太は何の悪びれもなく、平然と言い放ちました。
あいの僻に母を押し込め、自分たちはの向こうのカナダへ旅つ。
その計画に、体どれほどの勝さが含まれているのか、息子は微も理解していないようでした。
健太は私の顔を伺うどころか、着の内ポケットから帳を取りし、胸ポケットから万を抜きました。
帳の見きページをとんとんとリズミカルに叩きながら、事務な調で話を続けます。
「の査定もすでに済んでいるんだ。母さんは実印を用してくれればいいから」
広げられた類の番には、すでに産業者の見積もり印が押されていました。
私は目を細め、そこに並ぶ数字を追いました。