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"全盲の義母が言い当てた味噌汁の色" 第3話

キッチンの奥で包丁を握る彼女の姿には、切の迷いがなかった。まな板のでトントンとリズミカルに鳴る包丁の音は滑らかで、澄んだ番汁を布巾で濾す所作には、の経験に裏打ちされた無駄のない美しさがあった。 私はし背筋を伸ばし、緊張しながら割り箸をにとって、お椀にをつけた。 すすった瞬、体に染み渡るような滋い優しいわいが、舌のにふわりと広がった。

『……すごく、美しいです。こんなに美しいお噌汁、初めていただきました』 『ふふっ、それは良かったわ。これから族になるんですもの、慮しないでたくさんべてちょうだいね』

あのの義母は、優しくて、凛としていて、自分の料理と庭に確固たる誇りを持った、から頼もしいの女性に見えたのだ。 しかし――あの凄惨な事故で力を失ってから、彼女というは、まるで別のように変わり果ててしまった。

『私はもう、目が見えないから何もできないの……。包丁を握ることも、を使うことすらできないれな盲目の寄りなのよ……。美玲さん、あなたが見捨てたら、私は飢えにするしかないわ。あなただけが頼りなの……』

事故の、病院のベッドので、そして退院した暗い実の居で、義母は私のを握りしめ、涙をボロボロと零しながらそう訴えるようになったのだ。

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最初の頃は、ただ純粋な同と慈のから、を失って絶望に沈む義母を何としても支えなければならないと、私は献に尽くした。 だが、、とが流れるにつれ、私の胸のには、言葉にし難い奇妙な違が澱のように堆積し始めていたのだ。

例えば、冒のような来事だ。 ある、いつものようにタッパーに詰めた夕を届けると、義母は茶碗をに取り、嬉しそうに目を細めて言った。 『美玲さん、今のお噌汁、とっても美しかったわ。お噌、わせ噌から噌に変えたでしょう?』 そのの私の驚きは尋常ではなかった。確かにそのは、いつもと違う噌を隠しに使っていた。けれど、を見ることができないはずの盲目のが、なぜそこまでピンポイントで噌の種類を言い当てられるのか。 覚や嗅覚が研ぎ澄まされているから気づいたのだろうか。それとも、私が料理を運んできた際、無識のうちに『今は噌ですよ』とってしまっていたのだろうか。 私は自に戻ってからも、でブツブツと呟きながら、必に自分を納得させようとした。

けれど、同じような「奇妙な指摘」は、そのもて続けに起こった。 『美玲さん、昨の焼き魚、ちょっとが通りすぎだったわね。焦げ目が目ってたわよ』 また別のには、空になったタッパーを返されながら、 『今のご飯、いつもより加減がしかったんじゃない? お米の表面が柔らかすぎて、見た目がしベチャッとしていたわ』 と言われた。

私はその都度、引き攣りそうになる頬の筋肉を必に抑え、作り笑いを浮かべながら、 『そうですか、気がつかなくてすみません。今度から加減に気をつけますね』 とをげて返答していた。 けれど、私ののでは、底なし沼にを取られてじわじわと沈んでいくような、得体のれない恐怖と疑が急速に広がっていた。

目が見えないはずなのに、なぜ魚の皮の焦げ具が分かるのか。 目が見えないはずなのに、なぜご飯の炊きがりの見た目の状態まで指摘できるのか。 の細かな差異だけでなく、覚で捉えなければ判別できないはずの「見の微細な変化」を、彼女はまるですべてを見通しているかのように確ににしてくるのだ。

最初は、気のせいだとい込もうとした。 事故の遺症で力を失った代わりに、神様から並れた第でも授かったのではないか、と気な理屈をつけて納得しようとした。 だが、その違の棘は、を追うごとに私の胸の奥くへとい込み、決して消えることはなかった。

私がこれほどまでに理尽な違を抱えながらも、義母への過酷な尽力をやめられなかった最の理由。 それは――代半ばの頃に、私の最の実母を病気でくした際の、決して消えることのないい悔の傷痕にあった。

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