"夜勤の救急外来に運ばれた夫と義姉" 第7話
誰もが固唾を呑んで、里子の次の言葉を待っていた。
絶叫するだろうか。
それとも、泣き崩れるだろうか。
だが、彼女のから発せられたのは、私たちの像をはるかに超える、おぞましい言葉だった。
里子は、ゆっくりと、まるで錆びついたブリキの形のように。
ギギギと音をてながら、私の方を振り返った。
その目に宿っていたのは、しみでも、驚愕でもなかった。
純度100パーセントの、憎悪。
彼女は私を指差し、震える声で叫んだ。
「こ、これはどういうことなのよ、み咲さん!」
里子の顔はりで歪み、夜叉のようだった。
「あなたが、拓也を満させてあげないから!あなたが夫をないがしろにするから!」
彼女は狂ったようにわめき散らす。
「拓也は、こんな……こんな過ちを!」
責任転嫁。
しかも、最悪の。
私は何も答えなかった。
ただ無表に、氷のような線で、狂乱する義母を見つめ返す。
私の沈黙が、さらに彼女のりのに油を注いだ。
彼女は団駄を踏み、ヒステリックに叫び続ける。
「なんなのよ、その目は!あなたが悪いんでしょう!」
里子は私に掴みかからんばかりの勢いだ。
「恥らずな嫁!うちの拓也に、麗子に、なんてことをさせてくれたの!この棒猫!」
彼女の論理は完全に破綻していた。
「拓也がこんなことをするはずがない!あなたがそうさせたのよ!きっとあなたが誘惑したのね!」
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里子は両で顔を覆い、狂ったように叫ぶ。
「もうあなたの顔なんて見たくない!今すぐこのからていきなさい!」
彼女は私を睨みつけ、吐き捨てるように言った。
「いいえ!本のどこからでも消え失せなさい!この疫病神!」
罵詈雑言の嵐。
恥らず。棒猫。疫病神。
義母のから次々と繰りされる侮辱の言葉が、病院の廊に響き渡る。
周りの同僚たちは、私を庇おうと何か言いたげにをきかける。
だが、あまりの剣幕に言葉を失っている。
拓也はストレッチャーので、々しくを伸ばした。
「母さん……やめてくれ……」
力なく呟いているが、その声は母親のヒステリーに消されている。
私は、その全ての言葉を、ただ浴びていた。
ので、何かがプツリと切れる音がした。
いや、違う。
最の最に残っていた、ほんのわずかな躊躇や同といったな。
それを繋ぎ止めていた最の糸が、完全に断ち切れたのだ。
ありがとう、お義母さん。
ので、私は静かに呟いた。
あなたのその言葉が、私の覚悟を完成させてくれた。
あなたのその理尽さが、私の復讐に点の曇りもない義名分を与えてくれた。
私は計を瞥し、静かにをいた。
「です」
私が発した静かな言に、義母の罵倒が瞬だけ止まった。
私は義母から線をし、まっすぐにを向く。
「これ以は、患者の命に関わります。オペへ運びます」
私は鈴先に目配せすると、再びストレッチャーを押し始めた。
里子が背で団駄を踏む音が聞こえる。
「待ちなさい!この私を誰だとってるの!拓也の母親よ!」
背で里子の切り声が追いかけてくる。
だが、もう私のには届かない。
さあ、台はった。
最の観客。
あなたので、最のオペを始めましょう。
私は氷の仮面ので、微かに角をげた。
術のい自ドアが、私の背で静かに閉まった。
ガチャンという無質なロック音が、界との完全な断絶を告げる。
義母のヒステリックな叫び声も、廊の喧騒も、全てが嘘のようにざかる。
そこには、術特の緊張を孕んだ静寂が満ちていた。
鈴先が、袋をはめながら声を張りげた。
「よし、始めるぞ」
鈴先の号令過、麻酔科医たち、護師が斉にきす。
まるで精密械の歯が噛みうように、それぞれが自分の役割を黙々と、しかし迅速にこなしていく。
麻酔科医がモニターを見つめながら、鋭い声をげた。
「バイタル定しません。血圧。輸血準備。急げ!」
麗子の状態が特に悪かった。
事故の衝撃による内臓からの血がひどく、血圧が見るみるうちにがっていく。
モニターの警告音が、内にけたたましく鳴り響いた。
鈴先がを差しす。
「佐藤さん、ガーゼと鉗子!」
「はい」
私は医師の指示に、寸分の遅れもなく反応する。