"貧乏老人を嘲笑った行員の末路" 第7話
「では、そうさせてもらおう」
神崎の笑みが瞬だけ止まった。次郎がその言葉をにした直だった。支内のどこかで、子音がさく鳴り響いた。ピンとく澄んだ音。秒、もう度ピン。さらに秒、ピン。業務端末の画面に勤通が等隔で映しされ始める。
百万円、百万円、千万円、千万円、千万円、億円――。
容赦なく桁が膨れがっていく。全て宛ての振り込み。
「待て……どれもうちの座だ……!」
藤堂が画面を覗き込んだ瞬、その表が真っ青に固まった。
『クオン次郎』『クオンホールディングス株式会社』『クオン産』『クオン流通サービス』『クオンフードチェーン』――経済誌の見しでしか目にしたことのない企業群の名が、画面いっぱいに並んでいった。希の目も、自分の窓の端末画面に釘付けになっていた。
クオンホールディングス――。元商会の広報誌で何度か目にした名、県内最の品流通グループ。その会が毎のように当て布のジャケットで来していたあの穏やかな老が――。
「クオン様が、まさか……!」
希はわず両でを覆った。クオンホールディングス。まさか、あのクオングループの――。
神崎の顔が気に真っ青に蒼ざめていった。その、ロビーの話がけたましくなり響いた。受付の員が震えるで受話器を取り、藤堂に差しす。
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「課代理、本取締役からです!」
「取締役から……?」
藤堂が受話器をに当てた瞬、取締役の声が漏れ聞こえてきた。
『藤堂、今、誰を相にしているかわかっているのか!? 私は公用で向かっている。全ての記録を保全しておけ!』
「えっ……あ、はい……!」
話が切れた。藤堂のから受話器が滑り落ちる。次郎は表を変えず、ボストンバッグから枚の名刺をカウンターのに置いた。
『クオンホールディングス株式会社 代表取締役会 クオン次郎』
「ご希望通り、のへの切り替えをめてもらっている。クオンホールディングス全社の座も、私個の預も、全て別のへ移すよう指示をしている」
「お、お待ちください、クオン様! これは何かのき違いかと……」
「き違いではない。私は正式にを変えるつもりで来ている」
藤堂は返す言葉を見つけられなかった。
「もしかして、最初からこうなることを……いや、こうなるに、君たちが気づいてくれることを願っていた。残ながら、にわなかった。それだけだ」
支のスピーカーから、全共の緊急アナウンスが流れる。
『クオンホールディングスグループ各社、並びにクオン次郎名義の個座等との取引・契約解除の届を、本が正式に受理した』との内容であった。ロビーの若員がわずを抑える。
当の本度業績見通しは、たった今そこで吹きんだ。
「ま、待って……違います! これは俺のせいじゃ……!」
「神崎、おが貧乏なジジイだなどと軽々しくにしたからこうなったんだ!」
「いや、課代理が振り分けの判断を全部指示していたじゃないですか!」
「お、お、逆らうのか……!」
責任の押し付けいがみっともなく響き渡る。次郎はを見ようともしなかった。
「篠崎さん、からも誇りを持ってこの窓に座っていなさい。君の正しさはこの私が証する」
「クオン様……」
次郎はボストンバッグをゆっくりと閉じた。窓ので、希の目から涙がポロリとこぼれ落ちる。もう誰も笑っていなかった。
直、自扉が勢いよくいた。
「申し訳ございません! 遅くなりました!」
ロビーに駆け込んできたのは、本例会議に席していたはずの沢孝志支だった。会議の途で本から緊急連絡を受け、座してタクシーで駆けつけてきたのだ。沢はそのに膝をつき、くをげた。
「会、本当に、本当に申し訳ございませんでした……! 窓運営を藤堂課代理に任せきりにしていた私の責任です」
「沢君、久しぶりだな。君が平社員だった代に、元のさな町への融資を司のを説得して通してくれた。その来事を私は今でも覚えているよ」
「会……」
沢の元がわずかに震えた。同じ支にいながらだけ次郎に温かく迎えられている沢の姿を、藤堂と神崎は信じられないいで見つめていた。