"貧乏老人を嘲笑った行員の末路" 第5話
話を切ると、次郎は机の引きしから枚の古びた写真を取りした。駆けしの頃の自分と、若きの融資課だった沢孝志が並ぶ記写真であった。
「沢君だけは巻き込みたくないのだがな……」
写真のの若きの沢に向かって、次郎はさくつぶやいた。窓のでは、夕が並みを淡いに染めていた。
同じ頃、定営本・取締役。羽義は例会議の資料に目を通していた。「今期の業績は堅調」――目のの数字はそう語っていた。机のの直通話が静かに鳴り響いた。羽は受話器を取り、「羽に失礼いたします」と告げた。
「取締役、クオングループ秘の倉持と申します」
その名を聞いた瞬、羽の背筋がわずかに伸びた。クオンホールディングス――の最取引先である。その秘が夕刻に直接話をかけてくることなど、過に度もなかった。
「本、会が貴の第支におち寄りになりました。会はご腹でいらっしゃいます。本付けで、当グループ全社のメインバンクをへ切り替えるご決断をなされました」
受話器を握る羽のから、ペンがことりと机に落ちた。
「朝、会が再度第支にお越しになります。羽取締役には、その帯にわせて現にお越しいただきたい。
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これが会のご向でございます」
「わかりました。必ず伺います」
話が切れた。受話器を戻した羽のが激しく震えていた。久音次郎――の創業血筋に連なる株主の角。その方が自分たちので何らかの遇を受けている。羽は勢いよく子からちがった。額にはたい汗が吹きしている。机ののインターホンをく押した。
「今すぐ副取と法務部、事担当役員を取締役に呼んでくれ。緊急だ! 第支の業務端末ログ、並びに同員のSNS投稿履歴、分以内に全件保全しろ! 羽、私は直接支へ向く、公用を半に配してくれ!」
「かしこまりました」
通話を切った羽はネクタイを乱暴に緩めた。をすれば本の業績そのものが揺らぎかねない。朝までにできることを全てやる。取締役の扉が慌ただしくノックされた。本全体が、これから夜をかけて朝の対応に向けてき始める。その指揮を取るのは自分しかいなかった。
方、希のアパートでは、夜の静けさが畳の部を包み込んでいた。机のには、母親の医療費領収と弟の学費の控えが並ぶ。希はそのを1枚ずつ指先でそっと撫でた。引きしから、族4で撮った古い写真を取りす。父の隣で母が穏やかに微笑んでいる。
「お母さん……」
写真を胸に当てたまま、希は先週の見いをいしていた。点滴のチューブにつながれた母が、痩せ衰えたで希のを握る。
「仕事はどう?」
「うん。毎、いろんなお客様がいらっしゃるよ」
「そうねえ……希、何?」
「お母さん?」
「おやでを判断せず、誰に対しても誠実でいなさい。それが、お父さんとお母さんがあなたに残せるたった1つのことなの」
「うん……お母さんもね、若い頃、貧しくてどうしようもなかったがあったわ。そのに、ある方から優しくしてもらってね。その方の顔は、今でも忘れないわ」
「お母さん……」
「だからね、あなたも、誰かにとってそういうでいてあげてね」
記憶の裏に、あの穏やかな老の姿が浮かびがった。当て布のジャケット、丁寧に入れされたバッグ、そして最に向けてくれた「ありがとう」の言。
「お母さん、私、あの方に誠実でいられたかな……」
勤すれば、藤堂と神崎のたい線が待っているだろう。お客様を引き止めようと窓をびしたことで評価に響くと、藤堂は確かに言った。クビになる能性さえある。族の活は自分の肩にかかっている。それでも――。
「お母さん、私、悔してないよ」
写真をそっと机に戻し、希はかりを消した。窓のでは、町のかりが夜の気ので静かにまたたいていた。
その頃、定営第支の支。の本例会議で沢が終になる。藤堂は次の予定をくから把握していた。