"貧乏老人を嘲笑った行員の末路" 第4話
藤堂は面倒くさそうに歩み寄った。
「なんでしょう、クオン様。簡潔にお願いします。本も切なお客様をお待たせしておりますので」
「うむ。実はこちらでお世話になってきたが、別のへ預を移したいと考えてな。続きを教えてもらえんかね」
藤堂はわず横にいた神崎と顔を見わせ、肩をすくめて吹きした。
「のへ移されるということですか? 百万程度のためにわざわざそのようなご相談を。そうですか、じゃあ類お渡ししますね。けど座の解約って結構面倒すよ。証の原本も必ですし、類も何種類も……まあ、何度か通っていただければそのうち終わるかと。どうぞどうぞ、続きはここで打ち切らせていただくことも能です。どちらでもお好きにお選びください」
ロビーには、神崎たちのら笑いだけが虚しく響いていた。窓の隅で、希の顔が青ざめた。こちらに通ってくださっていたお客様が、を変えると申している。それなのに、引き止めるどころか嘲笑をもって見送ろうとしている。たとえ相が誰であっても、員としてこれは決して起きてはならないことであった。
「課代理、お待ちください! クオン様、どうかもう度よくご検討ください!」
希は反射に窓からびし、次郎のに駆け寄った。
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「いや、君が悪いのではない。気にしないでくれ」
「篠崎、職に戻れ。お客様のご向を尊する。それが員の勤めだ」
藤堂の元には勝ち誇ったような笑みが浮かんでいた。次郎はゆっくりと希に向き直り、目をわせた。
「君には世話になった。いだったが、君のような員さんに会えて私は嬉しかったよ。クオン様……いや、君のような員さんがいる限り、このもまだ捨てたものではない。それだけは覚えておいてほしい」
希の喉の奥がぐっと詰まった。何か言葉を返したかった。だが、声にならなかった。次郎はくをげると、ボストンバッグを抱え直し、ゆっくりと支をにした。
「ふん。何が代劇みたいなこと言ってんすかね」
「まったくだ。あんな老いぼれとは付きってられん」
自扉が閉じる音と入れ替わりに、藤堂と神崎の笑い声がロビーに響き渡る。
「あのジジイ、本気でのに移すつもりっすかね」
「まあ無理っしょ。寄りが類何枚もかけるわけないっすよ。貧乏のだ、放っておけばいい。減るのは件数だけで、収益には響かない」
笑い声を背に、希はうつむいたまま両をく握りしめた。指の関節がくなる。涙がにじみそうになるのを必にこらえた。
そのの夕刻、久音次郎の自宅の斎には、夕が静かに差し込んでいた。
次郎は革張りの子にく腰をろし、机ののボストンバッグに線を落とした。今の支で類を度き直させられたこと、神崎のら笑い、藤堂の蔑むような線、そして窓の隅で自分のために震える声で抗議してくれた若い員の姿。
「どうしてこうなったのかね……」
そのつぶやきが、誰もいない斎に静かに溶けていく。次郎はく息を吐き、連れ添ったへの最の決断をした。机のの話をゆっくりと取る。
「会、いかがなされましたか?」
クオングループ秘・倉持孝志の声だった。次郎の声だけで何かが起きたことを察したらしい。
「倉持、例の支、しかしてもらえるかね」
「承いたしました。グループ全社のメインバンクをへ切り替える準備に入らせていただきます」
「ああ、ただし期は私が指示するまでくな。連絡があったら秒隔で振り込みを始めてくれ」
「かしこまりました。これは引導を渡すためのいでございますね」
「けではは変わらん。倉持、君には朝、私が支に入るタイミングにわせて本から駆けつけてもらうように伝えてくれ」
「ご決、確かに受け承りました。それと、倉持、お自も朝、支まで迎えに来てくれ」
「会、それは……」
「あのではっきりと幕を引く。世話になっただ。
最に私が取れるせめてもの礼儀だ」
「承いたしました。きっかりにお迎えにがります」