"「死産」と告げた院長と20年目の出生記録" 第5話
違う。詰まっていたのは胸ではない。
あの子、と彼らが呼ぶ、先入った若い護師のことが、に私のの奥でなった。
まるで、自分の娘のように。
名はまだらないけれど、その背を私は何度か見かけていた。
い髪の先が、淡いの護から逃げして、首のろで揺れていた。
私は廊を静かに歩き抜けた。
誰にも気づかれぬよう、自分の音をみ込みながら。
この刻の病院には、2つの静けさがある。
が眠るための静けさと、が隠し事をするための静けさ。
私はその両方を、掃除のの内によくっていた。
そしてその夜、私はに古いロケットを取りした。
掃除用具の奥、私だけが使う古いロッカーの段ので。
彼女の名を、私はまだらない。
けれど、その子の姿を見るたび、胸が潰れるほどに痛いんだ。
あの子がきていれば、きっとああいうに護師になって、い子を被っていたかもしれない。
私はロケットの留めに爪をてていた。
にはさな指輪が入っていた。
の、赤ん坊の指にすら通らないほどの、本当にさな輪。
それは、私が彼女のために密かにあつらえたものだった。
産という言葉に殺されなければ、あの子のの薬指に、いつかはめてやるはずだった。
私は指輪をそっと握りしめた。
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たい属の触。
だけど、その夜はどうしても握りしめていたかった。
親指の腹で、指輪の内側をなぞる。
誰にも見せていない。
その内側には、「しず子」の文字がさく刻まれている。
私の名。
私の名を呼ばせるためではなく、いつかこの指輪が彼女の指にはまる、その内側が私のぬくもりを覚えているように。
その、急湯のドアので、誰かがらかにを止めた。
そして、こちらを見渡す気配がした。
私は息をみ、指輪を素くロケットへ戻し、留めを閉じた。
カチリというさな属音が、静寂のでまるでい鐘のように響いた。
「しず子さん」
声がして、私は息を詰めた。
ドアが3センチだけいた。
その隙から、のいが私の顔を横に切った。
「あの、すみません。これ落とし物じゃないかって」
細いが差し込まれる。
淡いピンクの、くえられた爪。
そののひらに、何かさなものが乗っている。
ビニールで包まれた、のようなもの。
私はちがり、ゆっくりとドアをけた。
そこにっていたのは、先入ったあの若い護師だった。
きちんと結ばれた髪、マスクのから覗く両目。
その目のに、うっすらと泣きぼくろがあるのを、私はこの瞬初めてちゃんと見た。
「あの、私、見かけたんです。しず子さんがさっき廊で、これ、胸ポケットから落としませんでしたか」
さない。
私が湯で破り捨てた、垢のついたシンクのメモかとった。
けれど、彼女が持っていたのはそれらではなかった。
の端が折られ、内側にボールペンで何かかれている。
彼女はその片をつまみにして、私へ差しした。
「けて見てください」
私は彼女の顔を見た。
彼女の目は泣いていた。
いや、泣くのを必にこらえている目だった。
私は震えるでそのを受け取り、広げた。
そこには、震えるようなさな字でこういてあった。
『まだにいます。あなたの娘さんきています』
私はを見つめたまま、凍りついた。
界の端で、廊の非常灯が淡く点滅している。
あの子が、私の胸の奥の20を、まるで名をっているかのように無言で頷いた。
いや、頷いたのは私のかもしれない。
「あの、私」
若い護師は、声を絞りすようにして言った。
「実はずっと、お伝えしようか迷ってて。でも今、あの鈴さんがしず子さんにすごい言い方してるのを見て、私」
彼女は目を伏せた。
「仕事のことで彼女にずっと、あのって、すみません。話せなくて」
彼女はマスクのから元にを当て、それからでちろうとした。
私はその片を持つを胸のに抱くようにして、彼女の名を呼び止めた。
「待って」
彼女が振り返る。
病院のい廊。
彼女の背の壁に、片を返すために伸ばした私ののが映っていた。
「あなた、にも私に何か」
彼女はさく何度も頷いた。