"実家のオンボロ工場を笑った次期社長を54階へ案内した" 第2話
次期社の嫌がらせ
あるの朝、私は勤して自分の席に座り、パソコンをちげた。
「ああ、またか」
私は画面を見て、わずい声を漏らした。サーバーにある私の作業用のフォルダーをくと、が全て空になっていたのだ。元に全部消されてしまったらしい。
私はマウスを操作してゴミ箱を確認したが、やはり何も残っていなかった。サーバーのファイルは、削除されるとゴミ箱には入らず、そのまま完全消されてしまうのだ。そのため、私の権限では元に戻すことはできない。
しかし、私は特に取り乱すこともなく、静かにモニターを見つめた。これが初めてのことではないし、対処法もっているので焦りはない。私はくじる腰をげ、ゆっくりとシステム部へと向かって歩きした。
私がシステム部へ向かうのを、元は自分の席から見ていた。
「どうした、田?」
元はしめしめといった顔をして、私を馬鹿にするように笑いかけてきた。私は彼を無して通り過ぎた。
システム部のドアをノックし、に入った。うちの会社ではシステム部がサーバーのバックアップを取ってくれているので、消されたファイルを復元することは能だ。ただ、バックアップの取り方は、毎朝に社員それぞれのパソコンの状態を丸ごと保管するという仕組みになっている。
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私はシステム部の担当者のデスクにづき、声をかけた。
「あの、すみません。パソコンの状態を戻してもらいたいんですけど」
私がそう頼むと、システム部の担当者はやれやれという顔をして肩をすくめた。
「またですか、田さん」
担当者は面倒くさそうにキーボードを叩き始めた。何度も同じ依頼に来るので、彼らからも面倒にわれているのだろう。元の狙いは、ファイルを消して私を困らせてやろうということよりも、むしろこちらの「周囲から鬱陶しがられる状況」を作りすことが本当の目なのだとう。
システム部の担当者も、私がうっかりミスでファイルを消しているのではなく、元に嫌がらせで消されていることは察しているはずだ。
「注してくださいね」
担当者は私と元の関係に巻き込まれるのを嫌がるように、たい声でそう言ってパソコンの状態を今朝のに戻してくれた。
「ありがとうございます」
私はをげてシステム部をにした。パソコンの状態が丸ごと保されているため、なウイルスに染しても今朝のの状態に戻すことができるし、週分のバックアップがあるので数の状態に戻すことも能だ。しかし、夕方にバックアップから復元すれば、そのの作業が全部消えてしまう。
今は勤直にファイルが消えていることに気づいたので、作業被害はていないのが幸の幸いだった。
私は自分の席に戻り、システム部にこれ以迷惑をかけないよう、対策としてサーバーの個フォルダーにパスワードをかけた。
「これでしは防げるか」
私は画面を見ながらさく呟いた。しかし、サーバーの個フォルダーは、社内のとファイルのやり取りをするための共のでもある。そのため、私のフォルダーにあるファイルを必とする社員には、あらかじめパスワードを教えておかなければならない。
私は数の社員にパスワードをメールで送信した。そのには、元の取り巻きも含まれている。結果として、彼にあっさりとパスワードが漏洩してしまうのだ。元には経営企画部だけでなく、経理、営業部など々な部署に取り巻きがいる。そのため、嫌がらせが々な角度からんでくる。
数、私は湯でコーヒーを淹れていた。すると、廊から社員たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。
「田さんって、で糸を引くご飯をべてるらしいよ」
「えー、気持ち悪い」
に元が盛った話も、取り巻きがそれぞれの部署で仲に話したことで、私はすっかり「糸を引くご飯をべる潔な」とわれるようになってしまった。
私はコーヒーカップを握りしめ、静かに目を閉じた。こんなに分かりやすく嫌がらせをしていれば、会社に見つかって注されそうなものだが、元はずる賢いち回りが得だ。父である社や層部には、自分のいがバレないように周到に作している。
私がシステム部から経営企画部に戻ろうとした、廊で元と社が話しているところに偶然くわした。
「父さん、田のことなんだけど」
元は社に向かって、ひどく配そうな顔を作って話し始めた。
「最、社内で田が糸引くご飯をべてるって噂されてるんだ。あまりそういうことを言わないように、みんなに注できないかな」
私は廊の角にち止まり、彼らの会話を聞いていた。元は自分で盛った話を広めておきながら、社のでは私の配をするふりをして見せているのだ。
「そうか、そんな噂が。わかった、気をつけさせよう」
社はく頷いた。私と元は幼稚園から学まで緒だった幼馴染みということもあり、彼の迫真の演技を見て、社は彼が私のことを本気で配していると信じ切っているようだ。
私は静かに踵を返し、そのをれた。こうして彼は、私と仲のいいふりをして裏で湿な嫌がらせを続けている。周りの社員たちは彼の狡猾なち回りに気がついてはいるものの、次期社である彼との関係が悪化することを恐れ、私と彼のトラブルに巻き込まれるのを避けて貝のようにを閉ざしている。
私は自席に戻り、くため息をついた。転職しようか、と何度か考えたことがある。しかし、どうしても踏ん切りがつかずにいた。その理由は、私がこの会社に入った経緯にく関わっているのだ。