"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第6話
歳の審査員と豆腐ハンバーグの始まり
試を始めてから、週が経過した。
確かに、豆腐は以よりも定して売れるようになっていた。
夕方に量の廃棄をすは、目に見えて減った。
だが、閉。
レジを締め、売帳を計算していた美咲の表は、決してるくはなかった。
「どうした?売れたんだろう」
俺が声をかけると、美咲は卓を置き、売帳を見つめたまま答えた。
「売れました。でも、これだけではりません」
「何がだ?」
「おを続けるには、です」
俺は、黙り込んだ。
美咲の言う通りだ。
売がし戻ったとはいえ、の赤字を埋めるには全くりない。
「豆腐は持ちしません。作りである以、作れる量にも限界があります」
美咲は、俺の方へ向き直った。
「それに、初めて買ってくれたお客さんが、毎豆腐ばかりべてくれるわけでもありません」
「そんなことは、わかってる」
俺は、苛たしげに髪を掻き乱した。
「だから、何も苦しんできたんだ」
美咲は、槽の底にわずかに残った豆腐を見つめた。
「に、何かできないか……」
美咲が腕を組み、考え込んでいたそのだった。
「ママ、お腹空いた!」
元気な声と共に、保育園から帰ってきた向がにび込んできた。
「おかえり、向。もうし待ってね。今ご飯作るから」
美咲は、顔をほころばせて向を抱きしめた。
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「今のご飯、何?」
向が期待に目を輝かせる。
「今も、お豆腐よ」
美咲が答えると、向の顔がしだけ曇った。
「今も、お豆腐?嫌じゃないけど……毎同じ」
向は、正直なを漏らした。
俺は、わず吹きした。
「お、うまい美いってってたじゃねえか」
俺がからかうと、向は頬を膨らませた。
「美しいよ。でも、同じなんだもん」
「贅沢なやつだ」
俺は笑いながら言った。
ところが、美咲は笑っていなかった。
「同じ……」
美咲は、何かに気づいたように呟いた。
向が、槽に残った綿豆腐を指差した。
「ママ、これでハンバーグ作って。豆腐ハンバーグ。に作ってくれたやつ」
向のその言で、美咲の目のが変わった。
「そうだ……」
美咲は、弾かれたようにちがった。
「今度は何だ?」
俺は、また何か突拍子もないことを言いすのではないかと構えた。
「豆腐を、豆腐のまま売ることしか考えていませんでした」
美咲は、ケースに残った綿豆腐を両で持ちげた。
「修さん。この豆腐を使って、お惣菜を作れませんか?」
「お惣菜?」
俺は、聞き返した。
「はい。豆腐ハンバーグ、え、がんもどき。野菜と組みわせれば、派な夕のおかずにもできます」
美咲の言葉にがこもる。
「待て待て」
俺は、慌てて両を振った。
「うちは豆腐だぞ。惣菜じゃねえ」
「だからです」
美咲は、歩にた。
「スーパーのお惣菜と同じものを作るんじゃありません。この美しい豆腐だからこそできる、特別なものを作るんです」
また始まった。
俺は、きくため息をついた。
だが、美咲はもうつ、決定なことをにした。
「研究所にいた頃、品の栄養設計にも関わっていました」
俺は、顔をげた。
「栄養設計?」
「はい。タンパク質や塩分、脂質のバランスを考えながら、商品を作る仕事です」
の学院をた、元研究員。
その識が、ここで初めて具体な形を持ち始めた。
「でも、問題があります」
美咲は、真剣な顔で俺を見た。
「何だよ」
「私は、豆腐の成分のことは科学にはわかります。でも、この豆腐を番美しく扱えるのは、私じゃありません」
美咲は、真っ直ぐに俺の目を見た。
「あなたです」
俺は、言葉に詰まった。
「これ、緒に作ってもらえませんか?」
美咲は、くをげた。
俺は、腕を組んで井を仰いだ。
ひどく面倒なことになった。
そうった。
その横で、向が嬉しそうにびねた。
「向もやる!」
俺は、向のをポンと叩いた。
「おは、見だけだ」
「やったー!」
向が歓声をげる。
「それは伝いじゃねえだろ」
美咲が、吹きすように笑った。
俺も、つられてしだけ笑ってしまった。
だが、この俺たちはまだらなかった。
このさないつきが、のしい武器になる方で。
美咲が隠していた過まで、引きずりすことになるとは。