みかん小説
本棚

"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第5話

試の成果と元・京学学院の研究員

翌朝。

の準備をしていると、美咲が先にさなテーブルを運びした。

そのには、爪楊枝を刺したの豆腐が、綺麗に並べられた皿が置かれている。

「何する気だ?」

俺は、を拭きながらテーブルにづいた。

「べてもらいます」

美咲は、エプロンのシワを伸ばしながら答えた。

「試か」

「はい。ただし、何も説しません」

美咲は、自信ありげに微笑んだ。

してしばらくすると、買い物用のエコバッグを持った配の女性が通りかかった。

美咲は、すかさずテーブルのにち、笑顔で声をかけた。

「よかったら、べてみませんか?お豆腐です」

女性は、怪訝そうな顔でを止めた。

「お豆腐?タダなの?」

「はい。どうぞ」

美咲が皿を差しすと、女性は半信半疑で爪楊枝をに取った。

そして、サイズの豆腐をに運んだ。

女性は、もぐもぐと咀嚼し、ピタリときを止めた。

「あら……」

女性は、皿のにあるもうつの豆腐にを伸ばした。

パクリとに入れ、目を丸くする。

「これ、いつもスーパーで買ってるのとが違うわね」

俺は、わず美咲の顔を見た。

美咲も、してやったりという顔でこちらを見返してきた。

向が言ったのと同じ言葉だった。

「豆のが、ちゃんとするわ。甘くて美しい」

女性は、したように頷いた。

広告

「こちらで作っています」

美咲が、内の槽を指差して言った。

「じゃあ、丁もらえる?」

女性は、財布を取りしながらのに入ってきた。

その客をきっかけに、テーブルのには何かの客がを止めるようになった。

美咲は、ひたすら笑顔で試を勧め続けた。

驚くべきことに、試をした客の半分以が、そのまま豆腐を買っていった。

には、「こんな美しい豆腐がここにあったなんてらなかった」と言う若い客もいた。

昼には、いつも夕方まで残る綿豆腐のケースが空になっていた。

俺は、空のケースを見つめながら、信じられないいだった。

「偶然だ」

俺は、がってそう言った。

「そうかもしれません」

美咲は、エプロンのポケットからあのノートを取りした。

「だから、週、別の試数と購入率のデータを取ります」

「購入率?」

俺が聞き返すと、美咲はノートのページをいて俺に見せた。

そこには、昨までの来数、商品別の販売数、帯別の客層、そして廃棄数までが、見事な表になって記録されていた。

ただの主婦がつける計簿のレベルではない。

プロの分析データだ。

俺は、ノートと美咲の顔を交互に見た。

「お、品関係で何してたんだ?」

俺の問いに、美咲のノートをめくるがピタリと止まった。

美咲は、ノートを閉じ、両でしっかりと握りしめた。

「……研究です」

美咲は、ぽつりと答えた。

「研究?」

「品の研究と、商品発をしていました」

俺は、目を丸くした。

「どこで?」

美咲はしばらく黙っていたが、やがて観したようにさく息を吐いた。

そして、ある企業名をにした。

誰もがっている、品メーカーの名だった。

「あそこの、研究所にいたのか?」

俺が驚いて聞き返すと、美咲はさく頷いた。

「はい」

「学は?」

俺は、無識のうちに問い詰めていた。

「京学です」

美咲は、伏し目がちに答えた。

「農学部から、学院まで」

俺は、言葉を失った。

の学院。

別世界のだとっていた経歴が、目ののエプロン姿の女からびしてきた。

「じゃあ……なんでそんなが、娘連れて、仕事ももなくしてこんなところにいるんだよ」

俺は、ズバリと核を突いた。

美咲の顔から、すっと表が消えた。

「……その話は、したくありません」

美咲の声は、たく、拒絶の志がはっきりと込められていた。

俺は、それ以聞くことができなかった。

聞ける空気ではなかった。

の学院をて、品メーカーの研究所にいた女。

こんなエリートが、なぜ歳の娘を連れて、うちのような潰れかけの豆腐に流れ着いたのか。

正体がわかったはずなのに、謎は以よりもずっときくなっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: