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"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第4話

売れ残る豆腐のとを変えない販売戦略

美咲を雇ってから、が過ぎた。

彼女が仕事を覚えるのは、俺が像していた以にかった。

掃除も、番も、配達のルートも、度教えればほとんど聞き返さない。

際が良く、俺が何も言わなくても次に必なきを理解していた。

本当に、ただの素なのか。

折、そんな疑問がをよぎるほどだった。

ただ、彼女には妙な癖があった。

暇さえあれば、のをじっと観察しているのだ。

俺が作った豆腐ではない。

商品棚に貼られた値札、売れ残った商品の数、客が来る帯、買っていく商品の種類。

それらを鋭い線で追いかけ、にはエプロンのポケットからさなノートを取りしていた。

「何いてる?」

あるの午、俺はレジ横でノートにペンをらせる美咲に声をかけた。

美咲は、ビクッと肩を震わせてノートを隠すように抱え込んだ。

「あ、いえ……ちょっと気になったことを」

美咲は、言い訳するように目を伏せた。

「仕事だぞ」

俺が軽くたしなめると、美咲は慌ててノートをエプロンのポケットにしまった。

「すみません」

そのの夕方。

閉になっても、槽のには豆腐が丁も残っていた。

俺は、慣れたつきでプラスチックのケースを取りし、豆腐をすくいげる。

廃棄するための準備だ。

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美咲が、ゴミ袋を持って横にった。

「これ、どうするんですか?」

美咲は、ケースのの豆腐を見て聞いた。

「処分だ。全部な」

俺は、を交えずに答えた。

美咲の顔が、目に見えて曇った。

「毎ですか?」

美咲の線が、ケースと俺の顔を往復する。

「いはな。もったいないが、売れねえんだから仕方ねえだろ」

俺がそう言ってケースを持ちげようとすると、美咲が俺の腕を掴んだ。

「なんだよ」

俺は、眉をひそめて美咲を見た。

美咲は、黙って槽に残った豆腐を見つめていた。

「昨、向が言ったことを考えていたんです」

美咲の声は、真剣だった。

「向が?」

「はい。『いつもの豆腐とが違う』って」

俺のが、ピタリと止まった。

「あんな子供の言うことだ。気にすることねえよ」

俺は、努めてたく言い放った。

だが、美咲は引かなかった。

「だから気になるんです」

美咲は、丁の豆腐を指差した。

「何の識もない歳の子供でも、べれば違いがわかった。それほど、修さんの豆腐は美しいんです」

「それがどうした」

俺は、苛ちを隠せずに言い返した。

「なのに、どうして売れないんでしょう?」

美咲のまっすぐな線が、俺を射抜く。

「が悪いからじゃないですよね」

し、腹がった。

豆腐の苦労もらない素に、偉そうに言われた気がしたからだ。

「商売ってのはな、そんな単純じゃねえんだよ」

俺は、わざと荒々しい調で言った。

「スーパーにけば、丁円、円で売ってる。うちの豆腐は、その何倍もするんだ」

俺は、値札を指差した。

「値段で負けてるんだよ」

「だったら、スーパーで買っているは、この豆腐をべたことがあるんでしょうか?」

美咲は、歩も引かずに反論した。

「らねえよ。そんなこと」

俺は、顔を背けた。

「私は、ほとんどのがべたことがないんだといます」

美咲は、静かになった先を見た。

夕方だというのに、商を歩くは誰もいない。

「べたら、違いがわかる。でも、べてもらうところまでってない」

美咲は、再び俺を見た。

「何が言いたい?」

俺は、腕を組んで美咲を睨みつけた。

「この、豆腐が売れないんじゃないといます」

美咲の声には、確信に満ちた響きがあった。

「じゃあなんだ」

「この豆腐の価値を、誰にもってもらえていないんです」

俺は、で笑った。

「品関係でちょっと働いてたくらいで、商売がわかったようなこと言うな」

キツい言葉だったと、言ってから悔した。

だが、美咲はにも言い返さなかった。

「そうですね」

美咲は、さく頷いた。

「だったら、つだけ試させてもらえませんか?」

美咲の目に、挑戦なが宿る。

「何をだ?」

「この豆腐を、切変えずに売る方法です」

俺は、怪訝な顔をした。

「変えずに?」

「はい」

美咲は、はっきりと答えた。

「も、作り方も、値段も変えません」

俺は、美咲の顔をじっと見つめた。

この女が何を考えているのか、さっぱりわからなかった。

ただ、品関係でちょっと働いていた、というだけのが持つ目ではない。

何かもっとい、専な識を持ったの目だ。

そんな気がしていた。

俺は、さくため息をついた。

「……勝にしろ」

俺がそう言うと、美咲の顔にパッとるい笑みが浮かんだ。

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