"廃業寸前の豆腐屋に来た東大院卒の母親" 第2話
夜の公園のベンチと忘れ物のリュック
すっかり暗くなった商。
俺は、のにて、ガラガラとシャッターをろした。
鍵をかけ、ふと元に線を落とす。
の隅の、しになった部分。
そこに、さな布の塊のようなものが落ちていた。
俺は、をかがめてそれを拾いげた。
ウサギのキャラクターがプリントされた、さなリュックサックだった。
「全く……」
俺は、さく舌打ちをした。
さっきの女の子、向のものに違いない。
俺は、リュックをにしたまま、し迷った。
の朝まで放っておくか、それとも探しにくか。
だが、あの親子の様子をいすと、嫌な予がした。
む当てもなく、あてどなく歩き回っているのではないか。
「まだ、くにはっていないはずだ」
俺は、リュックを脇に抱え、駅の方向へ歩きした。
夜のはたく、ジャンパーの襟をてた。
商を抜け、駅のロータリーへと向かうを急ぐ。
途、さな公園のを通りかかっただった。
灯の暗いの。
ベンチに座っているつのが見えた。
俺は、を止めた。
女がベンチに座り、スマートフォンをに当てている。
その横で、向がをブラブラさせながら黙って座っていた。
違いない。さっきの親子だ。
俺は、声をかけようとして、歩踏みした。
だが、女の痛な声が聞こえてきて、が止まった。
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「すみません。歳の娘となんですが……」
女は、話の相に懇願するようにをげていた。
相の顔は見えないのに、何度もペコペコとをげる。
やがて、女は力なくスマートフォンをからした。
話を切る作が、ひどく々しく見えた。
女は、すぐに画面を操作し、また別の番号へとかける。
「今だけでも、なんとかなりませんか」
女の声は、震えていた。
「はい……そうですか。わかりました」
女は、再び話を切った。
い絶望が、その背から滲みているようだった。
俺は、暗がりのでち尽くしていた。
声をかけるタイミングを、完全に見失っていた。
本目の話が終わった。
女は、スマートフォンを両で握りしめ、膝のに置いた。
肩が刻みに震えている。
「ママ」
向が、女の顔を見げた。
「今、どこで寝るの?」
向の声は、に満ちていた。
女は、瞬だけ言葉に詰まった。
だが、すぐに顔をげ、向に向かって微笑んでみせた。
「丈夫」
女は、向のを優しく撫でた。
「ママが、なんとかするから」
その笑顔は、ひどく無理をして作られたものだった。
泣きしそうなのを必に堪えているのが、目からでもわかった。
その言葉と笑顔を見た瞬。
俺の胸の奥が、再びギリリと音をてて痛んだ。
数にも、俺は同じような笑顔を見た気がした。
絶望ので、子供をさせるためだけに作られた、しい笑顔。
俺は、無識のうちに暗がりから歩みていた。
「おい」
俺のい声が、静かな公園に響いた。
女が、驚いたように振り返った。
ベンチからね起きるようにちがる。
俺は、無言で向にづいた。
そして、に持っていたさなリュックを差しした。
「忘れ物だ」
俺は、ぶっきらぼうにそう言った。
向は、リュックを受け取ると、パッと顔を輝かせた。
「あ、ありがとう、おじちゃん」
向は、リュックを事そうに胸に抱えた。
「おじちゃんじゃねえ」
俺は、わざと仏頂面を作ってそっぽを向いた。
女が、慌てて俺のにみた。
「わざわざ、すみません」
女は、何度もをげた。
俺は、の元に置かれたきなボストンバッグを見た。
「今夜、くところないのか?」
俺は、女の目を見て単刀直入に聞いた。
女は、ハッとしたように息をみ、線をに落とした。
何も答えない。
それで分だった。
俺は、をガシガシと掻いた。
自分が何をしようとしているのか、わかっていた。
面倒なことに巻き込まれるのは御免だ。
だが、あの笑顔を見て見ぬふりはできなかった。
俺は、しばらく迷ってから、く言った。
「の階が、空いてる」
女が、弾かれたように顔をげた。
「え……」
女は、信じられないというように俺を見た。
「今夜だけだ」
俺は、を押すように言った。
ではそう言った。
このは本当に、そのつもりだった。
晩だけをしのがせて、にはてってもらう。
それで、俺の気まぐれな助けは終わりだ。
「さっさと歩け。えるぞ」
俺は、に背を向けて歩きした。
ろから、慌てて荷物を持つ音と、さな音がついてくる。
俺は、振り返らずに商へと戻るを歩き続けた。