"高卒エースを掃除係に落とした無能社長" 第9話
閉ざされた扉
翌朝、俺は始発のに乗り、いつもよりく社した。
キッズドリームとの契約が破綻の危に瀕しているとはいえ、まだ先方からの「正式な面による破棄通」が届いたわけではない。
たとえ針の穴ほどの能性であっても、営業である以、最の最までをってでも掻くのが俺の流儀だった。
午ちょうど。
俺はキッズドリームの商品統括本部へ、再度話をかけた。
「商品統括本部の部様をお願いできますでしょうか。アイリストイの篠田です」
『……あ、篠田さんですか』
話にたアシスタントの女性の声は、酷く気まずそうだった。
『変申しげにくいのですが……実は本付で、育玩具部の担当役員および統括部の事異が発令されまして』
「事異……ですか?」
嫌な予が背筋をった。
『はい。篠田さんとこれまで窓を担当していた任の部は、本付で関支社へ転属となりました。それに伴い、任者がめていたの案件については、度すべて撤回し、任の担当役員のもとでゼロから見直すという通達が社内にておりまして……』
最悪のタイミングでの、先方の組織改編だった。
倉島による方な契約見直しの連絡によって相の経営陣が信を抱いていた矢先に、理解者であった任の部までが現をれてしまったのだ。
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「しいご担当者様のお名を伺えますでしょうか。すぐに直接伺い、これまでの経緯と詳細な資料をご説させていただければと――」
『申し訳ありません、任の役員は今週いっぱいスケジュールの空きが切ないとのことで、「アイリストイ社からのアポイントはすべてお断りするように」と厳命されております……』
「そこを何とか、分だけでも――」
『申し訳ありません! 失礼いたします!』
ガチャン、と通話が切られた。
受話器を握りしめたまま、俺はそのに凍りついた。
方塞がりだった。
倉島による社内からの妨害作と、取引先の突然の担当者交代という運がなり、百億円の契約を繋ぎ止めるための最の細い糸が、完全にぷつりと途切れてしまったのだ。
そして――その破滅のらせは、瞬くに社内にれ渡った。
キッズドリームとの型商談が暗礁に乗りげたという噂は、まるで油にを注いだようにオフィスフロア全体を駆け巡った。
「おい、聞いたか? 篠田が担当してたキッズドリームの案件、破談になったらしいぞ」
「やっぱりな。あいつ、先代に気に入られて調子に乗ってただけなんだよ」
「社の言う通りだったな。実はのない落ちこぼれだったんだ」
湯から、喫煙所から、パーテーションのから、容赦のない無責任な囁き声がにび込んでくる。
昨まで俺の顔を伺い、をげていた課代理たちや同僚たちは、廊ですれ違っても挨拶すら返さず、まるで伝染病の患者でも避けるかのように距を取ってすり抜けていった。
昨、俺の席に来て涙を流したの姿すら、今は見当たらなかった。きっと先輩たちから「篠田に関わるな」ときつく釘を刺されたのだろう。
社内における俺の孤は、完全に極まっていた。
そして、そのの午。
倉島は営業部員全員を招集し、緊急の臨ミーティングを催した。
所は、あのと同じ会議。
壇にった倉島は、酷なを宿した瞳で、集まった部員たちを睥睨した。
「皆さんにおらせがあります」
倉島のマイク越しの声が響く。
「が社が総力を挙げて取り組んでいたはずの、株式会社キッズドリームとの型独占配契約が……先方より正式に破棄されました」
会議に、予通りとはいえ苦しい緊張がった。
倉島は元のリモコンを操作した。
壇の型スクリーンが点灯し、そこに巨な文字が映しされた。
【担当者:営業第課・篠田零司 契約交渉失敗】
【損失見込み:今期売目標の未達確定】
俺の名が、まるで公処刑台の罪の名札のように、巨な朝体でスクリーンに晒しげられていた。
屈辱で、全の毛穴からい汗が噴きした。
奥歯が砕けそうなほどく噛み締められる。
「見ての通りです」
倉島は嘲笑を隠そうともせず、俺を指差した。
「担当の篠田君は、先方の信頼を完全に損ない、が社にとって過最規模の商談を燼に帰せしめました。私が以から指摘していた通りでしょう。彼の実力など、この程度のものだったのです。『営業成績トップ』などという板は、先代の贔屓によって作られたハリボテの嘘に過ぎなかった!」
「……違います!」
俺は堪りかねてちがった。
「先方に直接連絡を入れ、条件を覆して信頼を損ねたのは、社――あなた自だ!」
「黙りなさいッ!!」
倉島の声が、俺の言葉を暴力に叩き潰した。
「見苦しい言い訳をするな! ビジネスの世界は結果がすべてだ! 契約を落としたという厳然たる事実のには、どんな言い訳も通用しない!」
倉島は演台を拳で激しく叩いた。
「篠田君。君にはもう、このアイリストイにする価値はない。全社になる損害を与えた責任を取り、今すぐ退職したまえ!」
会議は、を打ったように静まり返っていた。
誰も、俺を見ようとしなかった。
第課の部も、同僚たちも、全員が線を机に落とし、固くを噤んでいた。
誰も俺の方をしてくれない。誰も真実を叫ぼうとはしない。
が、たく震えていた。
激しいりと、底れぬ無力が交互に胸を突きげ、言葉が喉の奥でつかえててこない。
何を言っても、この閉ざされた空では、あの男の振るう理尽な権力によってすべて歪められてしまうのだ。
俺はゆっくりと、力なく子に腰をろした。
これ以、この醜悪な茶番劇に付きう必はない。
の奥底で、何かが静かに、完全に終わりを告げた音がした。