"高卒エースを掃除係に落とした無能社長" 第7話
仕組まれた罠
百貨への座同然の再訪をなんとか終え、無事に催事スペースの契約を守して会社に戻ったのは、夜のを過ぎた頃だった。
だが、会社に戻った俺を待っていたのは、さらなる骨な仕打ちだった。
営業第課の執務スペース。
俺のデスクは、昼のうちに勝に移させられていた。
かつては課のにあり、部たちと活発に見を交わしていたその机は、部の最奥、窓もない暗いパーテーションの隅――湯と類保管庫に挟まれた、まるでゴミ捨てのような角へと追いやられていたのだ。
机のにはパソコンと内線話だけが無造作に置かれ、棚にあったはずの過の営業資料や表彰状の盾は、すべて元のダンボールのに雑に放り込まれていた。
「……徹底だな」
乾いた声が漏れた。
社内における俺のを、覚にも物理にも完全に消しろうという倉島の図は、あまりにもだった。
それでも、俺は何も言わずに埃をかぶった机を拭き、散乱していた類をつひとつ丁寧に並べ直した。
翌朝からも、俺はその暗い隅の席で、誰とも会話を交わすことなく黙々と業務を続けた。
同僚たちの態度はにに化していった。
倉島の息がかかった幹部たちがフロアを見回る、俺と目をわせるだけで「篠田の派閥」
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「社への反逆者」と見なされる恐怖が、フロア全体を支配していたからだ。
だが、そんな張り詰めた状況ので、の若い社員が、周囲を警戒しながら俺の席へと恐る恐るづいてきた。
今入社したばかりの、営業第課の男性社員だった。
「……篠田さん」
は消え入りそうな声で話しかけてきた。そのには、震えるように握られたノートがあった。
「あの……お忙しいところ、すみません。実は、社内でんな噂が流れていて……」
俺はキーボードからをし、の目を見つめた。
「噂?」
「はい……。篠田さんが先、ポカをやらかして部内最位に落ちたとか、本当はこれまでの実績もインチキだったんじゃないかとか……社の息のかかった課代理たちが、湯でそんな話を触れ回っているんです。でも……僕、信じられなくて」
は涙目になりながら、俺のデスクのにノートをいた。そこには、俺が以彼に教えた、顧客へのヒアリングシートのフォーマットがびっしりとき込まれていた。
「僕が営業で最初の契約を取れたのは、篠田さんが夜遅くまでロープレに付きってくれて、現での誠実さを教えてくれたからです。篠田さんが落ちこぼれなわけがない……! どうして、どうして社はあんなに篠田さんを目の敵にするんですか……!?」
の純粋な悔しさと憤りに、俺の胸の奥にジワリと温かいものが広がった。
見てくれているは、確かにいる。
恐怖政治に屈していない若が、まだこの会社に残っている。
「ありがとう」
俺はの肩にそっとを置いた。
「俺が落ちこぼれかどうかは、社内の営業管理システムを見れば誰にでも分かることだ。数字は嘘をつかない。……だが、君が俺の方をしているとられたら、君まで社に睨まれてしまう。今は自分の仕事に集してくれ。俺のことは、配しなくていい」
「でも、篠田さん……!」
「丈夫だ。俺は、自分の仕事に点の曇りもないと誇りを持っているから」
は唇を噛み締め、何度もをげながら自分の席へと戻っていった。
ほんのしだけ、救われたような気がした。
だが――そのさな救いを完全に砕する破滅の音は、そのの午にやってきた。
午。
俺のデスクの内線ではなく、私用のスマートフォンが激しく鳴した。
画面にる発信者名を見て、俺の臓がねがった。
『キッズドリーム・商品統括本部』。
あのがかりの百億円プロジェクトの、先方のキーマンからの直接の着信だった。
「はい、アイリストイの篠田です!」
努めてるく、力く受話器に応じた。
だが――受話から返ってきたのは、沈痛極まりない、い溜息だった。
『……篠田さんですか。本当に、本当に申し訳ないことになった』
「え……? 部、体どうされたのですか?」
『先ほど、役員会で正式に決定がりてしまいましてね……。篠田さんとめていた、来期からの育玩具シリーズの全国全舗独占配契約の件ですが……度に戻し、再検討することになりました』
撃を頂部に受けたような衝撃だった。
目のの界が、真っにスパークした。
「再検討……!? な、なぜですか! 先週の最終調会議でも、条件面はすべて双方に達し、あとは来週の調印式を残すのみだったはずです! 何か、商品仕様に問題でも発したのでしょうか!?」
必にいがる俺のに、先方の部は、言いにくそうに、しかし決定な真実を告げた。
『仕様の問題ではありませんよ、篠田さん。……実は先ほど、貴社の倉島社から、うちの社宛てに直接話が入ったんです。「篠田がまとめた契約案にはな利益計算の瑕疵があり、が社としてはこの条件ではめない。契約内容を根本から見直させてもらう」と、方に突っぱねられたそうなんです』
「な……っ!?」
『うちの社も激してしまいましてね……。「現が血を吐くいで積みげてきたを、トップがいきなり覆すような会社とは信頼関係を結べない」と。……篠田さん、あなたのこれまでの尽力にはから謝しています。だが、トップ同士がこれでは……現の力だけでは、どうにもならない』
ツーツーツー……。
方に通話が切れ、無質な終話音がの奥で虚しく霊した。
全から、血が沸騰するような激しいりが噴きがった。
百億円の案件だ。
アイリストイの何百という社員の活を支え、全国の何万という子供たちにを届けるはずだった、最傑作のプロジェクトだ。
それを――あの男は、ただ俺を破滅させたいという、そのくだらない私怨のためだけに、自らので握り潰したのだ。