"高卒エースを掃除係に落とした無能社長" 第3話
の誇りと玩具へのい
会議をて、広々とした執務フロアへと続く廊を歩く。
フロアのパーテーションの向こうからは、話の保留音やキーボードを叩く規則な音が漏れ聞こえていたが、俺のにはそれらの雑音はく霞んでいた。
ふと、フロアの最奥にある役員用応接スペースのを通りかかった、自ドアのガラス越しに台の子が見えた。
子にく腰掛けていたのは、髪の混じった品な老紳士――矢吹茂夫(やぶき しげお)会だった。
このアイリストイを町から証プライムの玩具メーカーへと代で育てげ、半まで社として陣指揮を執っていた物だ。俺というを誰よりもく評価し、引きげてくれた恩でもあった。
会の付き添いの秘がをげる、子の矢吹会とふと線が交錯した。
脳梗塞の遺症で体の自由が利かなくなった会の瞳は、しかし今なお澄み渡っていた。会は何かを言いたげに、わずかに唇をかしたように見えた。だが、今の俺には、その温かな線を受け止めるだけのの余裕は残されていなかった。
俺はさく礼だけを交わし、に自分のデスクへと向かった。
営業第課の自分の席に着き、く事務子に体を沈める。
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デスクの横にあるきな窓のを見げると、抜けるようなの青空がどこまでも広がっていた。つないその澄んだ景が、自分の胸のに渦巻く暗と残酷なまでのコントラストを描いている。
引きしをけると、使い込まれた帳と、自社製品のミニチュアサンプルがいくつか並んでいた。
のひらに収まるサイズの、さな製の育パズル。
指先でその滑らかな肌を撫でながら、俺は目を閉じた。
。
のものも、臭く営業をらせ、全国の問や売、百貨を巡り続けてきた々が、馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。
そもそも、俺がこのアイリストイに入社したのは、決して華々しいからではなかった。
母子庭で育った俺は、の、母が過労で倒れたことで学学を断せざるを得なくなった。学費を稼ぐどころか、々の活費と入院費を稼ぐため、をてすぐに就職を探さなければならなかった。
求票のをめくるで、ふと目に留まったのが『アイリストイ』の文字だった。
幼い頃、貧しいがで唯の娯楽だったのが、所の駄菓子の先で買ってもらったアイリストイ製の価なプラスチック玩具だった。壊れるまで遊び倒し、友達とになって笑いった記憶。
「子供の頃から好きだったおもちゃに関わる仕事ができるなら」
藁にもすがるいで応募し、採用を勝ち取った。
だが、入社してからの現実は甘くはなかった。
同期のほとんどは名私学や国公学の経済学部者たち。卒の俺に対する周囲の線には、らかな侮蔑と偏見が混じっていた。「どうせすぐに音をげる」「現の使いり員だ」――がに入らないはなかった。
学歴がない俺にできることは、ただつしかなかった。
誰よりもく社し、誰よりもく自社の製品を理解し、誰よりも誠実にお客さんの声にを傾けること。
幸いにも、子供の頃からおもちゃが好きだったことが功を奏した。取扱説や発資料を隅から隅まで読み込み、製品のギミック、全性基準、塗料の成分に至るまで、に叩き込んだ。
そして何より、俺はおもちゃというものを単なる「儲けの具」とは決してわなかった。
「玩具」という漢字の「玩」は、本来「にとってでる」「くわい、学ぶ」というを持つ。
おもちゃは、子供がこの世界にまれて初めて触れる文化であり、学びの原点だ。それを届ける仕事は、子供たちの未来を創る仕事なのだ。
その信を胸に、どんなにさな町の個商であっても、量販の仕入れ担当者であっても、俺は同じ量で向きい続けた。
相が何を求めているのか、で子供たちがどんな顔をして商品をに取るのかを、現に通い詰めて観察した。
転が訪れたのは、入社目のことだった。
当、業界内で誰もが敬していた気難しい老舗玩具問の頑固社の元へ、俺は半毎欠かさず通い詰めた。払いをらいながらも、競社にはないきめ細やかなディスプレイの提案を持参し続けた結果、競を退けて数千万円規模の独占配契約を勝ち取ったのだ。
そのの営業成績で、卒目のペーペーだった俺は、並み居る名卒の先輩たちをごぼう抜きにし、全社トップの売を叩きした。
社内が蜂の巣をつついたような騒ぎになったあの、俺を直接社へと呼びしたのが、当まだ矍鑠(かくしゃく)としていた矢吹社だった。
『篠田君、実に見事だったよ。君のような、製品と顧客に魂を注ぎ込める材をずっと待っていたんだ』
矢吹社はそう言って、自ら歩み寄って俺のを力く握りしめてくれた。温かく、節くれったきなだった。
『学歴なんてものは、過の板に過ぎん。切なのは、今ここでどれだけ誠実にと向きい、結果をせるかだ。君は将来、必ずこのアイリストイの太い黒柱になる。自信を持ちなさい』
その言葉が、そのの俺の血となり肉となった。
以来、俺は毎のようにトップの成績を維持し続けた。どんなに難航する商談も粘りくまとめげ、俺の営業スタイルはいつしか社内で『篠田メソッド』と呼ばれ、入社員の教育マニュアルの基盤にすら採用されるようになっていった。
それなのに――。
そのすべてが、たった半のに、音をてて崩れってしまったのだ。