"従妹に貸した部屋が、半年で40回又貸しされていた" 第1話
綺麗すぎる部と消えた活
本当に誰かがここにんでいたのだろうか。
私は洗面所のにち尽くしていた。
半ぶりに戻ってきたこの部は、静まり返っている。
元のを見ろした。
そして、すぐ横にある台所へと線を移す。
さらに奥の浴へと歩みをめ、を覗き込んだ。
どこを確認しても、が使った形跡がほとんど残っていない。
私はに持っていたスマートフォンをに当てた。
話の向こうから、母のるい声が聞こえてくる。
「さやちゃんは、本当にがかからないわね」
母は話で無邪気に笑っていた。
私はその笑い声を聞きながら、目のの景に違を覚えていた。
しかし、決定な証拠もないのに疑うことはできない。
私はただ、黙って洗面台の鏡を見つめていた。
半、誰かが毎ここで活していたはずである。
それなのに、浴の鏡には滴の跡さえほとんど残っていない。
あまりにも自然なほどに綺麗だった。
その違が何をしているのか。
このの私には、まだる由もなかった。
私はゆっくりと鏡から目をした。
通話が終わり、私は画面を操作して通話を切った。
私はスマートフォンを握りしめたまま、しばらく洗面所にっていた。
部の何かが壊れているわけではない。
壁やが汚されているわけでもない。
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むしろ、部を貸した側としてはするべき完璧な状態だった。
それでも、私はそのままこの部をて帰る気にはなれなかった。
何かを確認しなければならないような気がしていた。
私の名は藤森皆である。
齢は36歳になる。
昨の転職をきっかけにして、私はしいへ引っ越した。
このマンションからで40分ほどれた所である。
ここは、以は私自が暮らしていた部だった。
だからこそ、にあるさな傷の所も覚えている。
収納の扉のけ閉めする際のわずかな癖まで、全て私の記憶に残っていた。
この部を将来に売却するのか、それとも賃貸にすのか。
それはしい仕事が落ち着いてから決めるつもりだった。
そのため、この部は半ほど空きになる予定だった。
そこへ、ある相談を持ちかけてきた物がいた。
私よりである、従妹の瀬さやである。
さやは現24歳だった。
彼女はな国試験を控えていた。
さやの実には、まだ幼い弟と妹がいる。
夕方になるとテレビの音が響き、族の入りも激しい。
実では落ち着いて勉ができないと、さやから直接聞いていた。
私自も過に資格試験のための勉をした経験がある。
集できる静かな所が欲しいという彼女の気持ちは、よく理解できた。
そこで私は、1つの提案をした。
部が空いている半だけ、賃を取らずに自由に使ってもらうことにしたのだ。
私がさやに伝えた条件は、たった1つだけだった。
「試験勉のために使うこと、そして私に無断でのへ貸さないこと」
私は彼女の目を見て、そうはっきりと伝えた。
さやはさく頷いた。
「わかった、約束する」
彼女はその条件を素直に受け入れた。
だからこそ、私はしてこの部の鍵を彼女に預けたのだった。
それからの半、さやからの連絡はほとんどなかった。
漏れのトラブルも起きていない。
設備の故障をらせる連絡もなかった。
所のからの苦も切来ていない。
私は賃を取っていなかった。
そのため、毎の振り込みに関する事務な連絡をする必もなかった。
私は、彼女が静かな環境で勉に集できているのだろうと解釈していた。
私自もしい仕事が忙しかった。
そのため、こちらから頻繁に様子を尋ねるようなこともしなかった。
親族であるという事実が、私の警戒を緩めていたのも確かだった。
そして、約束の半が経過した。
部の返却を約束したの午だった。
さやは駅で私と待ちわせをした。
彼女は私のにつと、バッグのから鍵を取りした。
「半、本当にありがとう」
さやはそう言って、私に向かってさくをげた。
私は彼女の顔を見た。
し疲れているようには見えた。
しかし、国試験の直であれば、それは議なことではない。
私は彼女から鍵を受け取った。
「勉、変だったね」
私はただ、労いの言葉だけを返した。
そので部の状況について細かく問い詰めるつもりはなかった。
まずは鍵を返してもらい、で自分自の目で部の状態を確認しようとったからだ。
さやと別れた、私はそのままマンションへと向かった。
部のドアのにち、渡された鍵を鍵穴に差し込む。
ドアをけてに入った私は、最初に玄関から各部を順番に巡った。
そして、スマートフォンのカメラを起した。
私は部の様子を、1枚ずつ写真に残していった。
これは決して、最初からさやを疑っていたからではない。
今この部を売却するにしても、賃貸にすにしても、返却された点の正確な状態を記録しておきたかったからだ。
私は玄関のに線を落とした。
そこにはから持ち込まれたはずの砂も、落ちた髪の毛も、ほとんど見当たらなかった。
私は靴箱の扉をけた。
は完全に空だった。
棚板は、まるで乾いた布で丁寧に拭きげられたかのようにっていた。
私は玄関からリビングへと移した。
そこには、私が残しておいたさなテーブルと子が置かれている。
どちらの具も、私が貸しすに置いていた元の位置に正確に戻されていた。
窓枠にづき、サッシを確認する。
窓の鍵もしっかりと閉まっている。
カーテンを見げたが、目った汚れは付着していなかった。
元のフローリングを見渡す。
にもしい傷は見当たらなかった。
私は写真を撮るたびに、以自分がこの部で暮らしていたの記憶と目のの景を比べた。
台所へ向かい、蔵庫を置いていたスペースの横を見る。
そこには、私が過につけた細い傷がそのまま残っている。
廊へて、壁を確認した。
引っ越しの作業につけてしまった、い擦れ跡がある。
しい傷がないか探していたはずだった。
しかし、私の目につくのは昔からっている古い跡ばかりだった。
それは、普通に考えれば部の所者としてぶべきことである。
私は自分自にそう言い聞かせた。
台所へ戻り、私は流し台のの扉をけた。
排管の周りを触ってみるが、漏れは起きていない。
の戸棚をけてを確認する。
そこには、私が部を貸すに置いておいた未封の台所用洗剤が1本だけ残っていた。
調料のボトルも、使われた器も何もない。
さやが持ち込んだ私物は、全て綺麗に片付けて持ち帰ったのだろう。
ガスコンロの周りを見回した。
焦げ付きの跡も、油がんだ汚れも、ほとんど見当たらない。
私はコンロに触れながら考えた。
彼女はここで料理を全くしなかったのかもしれない。
試験の追い込み期なら、弁当を買ったりで済ませたりするがくてもおかしくはない。
私は台所をれ、寝へとを踏み入れた。
そこには、私が置いておいた折りたたみ式の簡素なベッドがある。
ベッドにづいてシーツを確認した。
シーツは綺麗に洗われ、端までピンと伸ばされて掛け直されていた。
枕元を見ろす。
そこにも私物は1つも残っていない。
私は部の隅にある机にづいた。
机の引きしにをかけて、ゆっくりと引きす。
には消しゴムのカス1つさえ見当たらなかった。
私はそこで初めて、写真を撮るをピタリと止めた。
いくら綺麗好きでも、勉のために半毎使った部である。
何か1つくらい、さな忘れ物があっても議ではない。
それでも、忘れ物がないこと自体は決して悪いことではない。
几帳面な性格のなら、分にあり得ることだ。
私はのため、部の各収納を1つずつけて確認して回ることにした。
これは勝に残された私物を探して暴くためではない。
今の片付け作業がどれくらい必かを見極めるためである。
私は押し入れのにち、襖をけた。
段には何も入っていなかった。
線を段へ移す。
そこには、私が以から置いていた古い掃除だけがポツンと置かれていた。
隣にあるプラスチックの収納ケースも引きしてみたが、は空だった。
次に洗面所へ向かった。
洗面台の鏡の横にある棚をける。
そこには歯ブラシも、化粧品のボトルも置かれていなかった。
浴のドアをけてを見る。
シャンプーの容器すら残っていなかった。
彼女が自分の持ち物を全て持ち帰ったのだろうとえば、それで話は終わる。
しかし、半というのさ。
そして、目のにあるこの部のあまりにも軽い空気。
その2つが、私ののでどうしてもくなりわなかった。
私はリビングに戻り、ソファの代わりにしていた子に座った。
そしてスマートフォンの画面をき、今撮った写真を最初からスクロールして確認し始めた。
玄関、リビング、台所、寝、洗面所、浴。
写真に収められた部の景は、どこも完璧にっている。
破損している箇所も見当たらない。
私は画面を見つめながら結論をした。
管理会社へ連絡して対応を求めるほどの問題はない。
なくともこの点では、私はそう判断していた。
それでも、私は1つだけに決めたことがあった。
今撮したこれらの写真は、削除せずに付がはっきりと分かる形で保しておくことだ。
なぜそうするのか、論理に説できるほどの疑いがあるわけではない。
さやを呼びして問い詰めるための材料もない。
もし母にこの違を話せば、どうなるか目に見えている。
「あんなに綺麗に返してくれたのに、体何が満なの」
母はきっとそう言って、私をたしなめるだろう。
客観に見れば、母の反応の方が当然だとった。
私は、根拠のない疑いを持つことと、事実を確認することを同じにしないように掛けた。
そろそろ帰ろうとい、私はちがった。
玄関へ向かい、ドアをけるにもう度だけ部のを振り返った。
半にこの部を貸した、私は確かに願っていた。
さやの過酷な勉が、しでも楽になればいいと。
だからこそ賃も取らず、細かな活の報告も彼女に求めなかったのだ。
そのの自分の選択を、悔したくはなかった。
けれども、を信じることと、何も確かめずに放置することは同じではない。
私はスマートフォンの画面を消し、鞄の内ポケットへくしまった。
まずは、この半にさやと交わしたLINEの連絡を、最初から読み返してみようと決めた。
彼女の嘘を暴きたいわけではない。
私が何かを見落としていなかったか、自分自の記憶を確かめたかったのだ。
部そのものには、まだ問題と呼べるような決定な証拠は見つかっていない。
それでも私は、この半を「何もなかった期」として無条件に片付けることを、ここでやめた。