"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第14話
それぞれの代償とたな朝
「お父さん! お母さん! 僕が……僕がすべて悪かったです!!」
悠は涙とをに垂らしながら、額を絨毯に擦り付けて懇願した。
「どうか、この通りです! 借の返済期限がもう目のなんです! しだけでも……百万でも、百万でもいいから援助してください! どうか、もう度だけチャンスを……!」
「お母さん! お父さん、ごめんなさい!!」
ミクもまた、乱れた髪を振り乱しながら、私の靴に縋り付こうとを伸ばしてきた。
「私がバカだったの! この男たちに唆されて、騙されていただけなのよ! 私、お父さんとお母さんの娘でしょ!? お願い、見捨てないで! 助けてよぉッ!!」
にいつくばり、先にと許しを乞うの姿。
かつて私たちを見し、「ちょろいバカ親」「しがないサラリーマン」と嘲笑っていた者たちの、これが成れの果てだった。
その姿は、あまりにも滑稽で、れで、そして何よりも胸が焼けるほど醜悪だった。
私は、伸ばされたミクのを、歩ろに引いてややかに避けた。
「……見苦しいわね」
私の平坦な声に、ミクがビクリと肩を震わせ、涙でぐしゃぐしゃになった顔をげた。
「あなたたちのその涙はね、自分たちの犯した罪を悔いている涙じゃないわ。自分たちの欲な未来が潰え、借と破滅が目のに迫ったから流している、ただの保の涙よ」
広告
私は、にいつくばるを、絶対零度の差しで見ろした。
「あなたたちは、私たちのやを、度でもい遣ったことがあったかしら? 、私たちがどんないで活を切り詰め、あなたにを注いできたか……その片でも像したことがあった?」
「お、お母さん……私、反省してるから……!」
「もう遅いわ。あなたたちにけをかける気は、私たちののに、これっぽっちも残っていないのよ」
私の言葉に、は息を呑み、絶望に目を見いたまま固まった。
そして、文夫が最の撃を宣告した。
「顧問弁護士には、すでにすべての証拠を提し、相談を済ませてある。おたちが送りつけてきた内容証郵便による恐未遂、そして結婚資を巡る詐欺為について、法な責任を徹底に追及させてもらう」
文夫は、を完全に捨てった徹な目で吐き捨てた。
「その無様で醜悪な姿が、々がおたちを見る、最の記憶だ」
「お父さん――ッ!!」
背で響く、ミクの絶望に満ちた叫び声を背に浴びながら、私たちは度として振り返ることなく、優雅な取りでラウンジをにした。
円のも払うことなく、ただ真実と法の鉄槌だけを残して。
それが、きにわたる戦いの、私たちの完全なる勝利の瞬だった。
あのホテルでの修羅から、数週が過ぎた頃。
私たちが依頼した弁護士から、ハイエナのそのの顛末が、事務な報告とともに淡々と伝えられた。
ミクと悠は、あのの直に即座に婚したという。
嘘とへの執着だけで結びついていた関係だ。互いの化けの皮が剥がれ、円の得にもならないと分かった瞬、脆くも崩れるのはあまりにも当然の結末だった。
悠は、額の借と女性トラブル、そして恐未遂の事実が勤務先にれ渡り、即刻懲戒解雇となった。
さらに、あの見栄っ張りなかず子がんでいた豪邸も、抵当権を使されてあっというに競売にかけられた。プライドだけを肥化させてきてきたは、額の負債を抱えたまま散り散りになり、完全に散したと聞く。
そして――ミクの辿った末もまた、自業自得とはいえ、凄惨を極めるものだった。
婚に実施されたDNA鑑定の結果、お腹の子は、やはり悠の子ではなかった。
相の男たちも当然認などするはずがなく、実からの支援も完全に断たれたミクは、誰頼る者のないまま、孤独に産を迎えたという。
だが、無職で借を抱えたミクに、で赤ん坊を育てる経済力などあるはずもなかった。
結局、彼女はまれたばかりのが子を、児童養護施設へと預けるしかなかったそうだ。
現、ミクは都会の吹き溜まりのような、築数の古い汚い造アパートで、たったで暮らしているらしい。
昼は清掃の仕事、夜は夜のと、必にアルバイトを掛け持ちしながら、々のパン代を稼ぐだけで精杯の活を送っているという。
それでも――週に度だけ、ミクは施設にいるが子のもとへ面会に通い続けているらしい。
『いつか、自分の力だけでちゃんとした活をて直して、あの子を引き取りたい』
弁護士を通じて聞こえてきたミクの言葉に、私は静かに目を閉じた。
自らの勝な欲望と裏切りが招いた、あまりにも過酷な現実。だが、それが彼女自が選んだであり、背負わなければならない罪のさなのだ。
最終話 すべてが終わった
穏やかな曜の朝だった。
の空から昇った柔らかな朝が、リビングのダイニングテーブルを温かく照らしている。
台所では、やかんで湯が沸くシュンシュンというよい音が響いていた。
私は急須に丁寧に茶葉を入れ、文夫のためにいお茶を淹れた。
テーブルのには、焼きたての鮭と、艶やかに炊きがった米、そして湯気をてる豆腐とワカメの噌汁。
かつてのように、誰かの嫌を伺うための豪華な料理ではない。質素だけれど、夫婦がからわうための、温かな朝だった。
「いただきます」
文夫が静かにをわせ、お茶にをつけた。
その顔には、ここ数ヶ張り付いていた険しさはどこにもなかった。定をに控えた、真面目で誠実なの男の、穏やかな横顔に戻っていた。
「……なあ、かよ子」
箸を置いた文夫が、ふと窓のの青空を見つめながら、静かにをいた。
「私たちは……あの子を甘やかしすぎてしまったのかもしれないな」
夫の呟きに、私は湯呑みを両で包み込みながら、静かに頷いた。
「何自由なく育ててやりたいという親のエゴが、あの子から、の痛みを像するを奪ってしまったのかもしれない。その罰は……私たち自も、胸の痛みとして背負っていかなければならないんだろうな」
「ええ……そうね、あなた」
娘を失ったしみや喪失が、完全に消えることはないだろう。慈しんできた記憶そのものを、綺麗さっぱり消しることなど誰にもできない。
けれど、私たちのには、もう悔も迷いもなかった。
「だが、もう振り返るのはやめよう」
文夫は向き直り、私の目をしっかりと見つめた。
「あの子が自分の犯した過ちと正面から向きい、に依せず、自分のでちがって……本当に更するがいつか来るのかどうか。それは、あの子自のの課題だ。私たちがを差し伸べることは、もう度とない」
「ええ。私たちは、私たちのをきましょう」
い、本当にい子育ての季節が、ようやく終わったのだ。
痛みを伴う終わり方ではあったけれど、私たちは決して悪に屈しなかった。理尽な欲に脅かされることなく、でを取りい、自分たちの尊厳とを守り抜いたのだ。
「これからは、で旅にでもこうか。今まで、贅沢なんて度もさせてやれなかったからな」
文夫が、昔のように目尻を細めて優しく笑った。
「まあ、楽しみね。温泉にでもって、ゆっくり美しいものをいただきましょう」
私もからの笑顔を返した。
失われた老資は、またでしずつ、慎ましく補っていけばいい。借があるわけでもなく、誰かにろ指を指されるようなき方をしてきたわけでもない。
私たちには、かけて築きげてきた、揺るぎない夫婦の絆と信頼がある。
窓のでは、の澄み切ったが々の葉を優しく揺らしていた。
これから始まるのは、誰にも脅かされることのない、穏やかで、毅然とした夫婦のセカンドライフだ。
私たちは、ようやく自分たちの本当のを取り戻したのだ。