"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第13話
沼の自滅
写真は何枚もあった。
あるは仕ての良いスーツを着た男性と。
あるは派ななりの若い男と。
そしてまたあるは、悠とはまったく似ても似つかない別の男性と。
いずれも、結婚、そしてミクが妊娠したとされる期と完全に致していた。
「この男たちは誰だ?」
文夫のくたい声が、逃げのない刃となって突き刺さる。
「悠君のらない男たちばかりだな。それも、やじゃない」
ミクの顔は、みるみるうちに血の気を失い、気を通り越して真っになっていった。唇がカタカタと震え、声がない。
「ミ、ミク……ッ!?」
悠はわなわなと震えるで写真を枚ひったくり、信じられないものを見る目で写真とミクの顔を交互に見つめた。
「これ……どういうことだ!? この男は誰だよ! なんでホテルに入ってんだよッ!?」
「ち、違うの……! これは……ただの友達で……!」
ミクは必に言い繕おうと線を泳がせた。
「ほお」
文夫がややかに追及する。
「友達と、きりでシティホテルにくのか。それも、替わりで違う男たちと何も部に篭るのが、君の言う『友達付きい』なのか?」
完璧な証拠のに、ミクの浅はかな嘘は瞬に砕された。
ラウンジの優雅なBGMが、まるでを嘲笑うかのように軽やかに流れている。
追い詰められ、逃げを完全に失ったミクは――次の瞬、信じがたい凶暴性を剥きしにして逆した。
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「うるさいッ!! うるさい、うるさい、うるさいッ!!」
ミクはテーブルをバンッと叩いてちがった。周囲の客たちが驚いて斉にこちらを振り返るが、娘はもはや体裁を取り繕う余裕すら失っていた。
「あんたが甲斐性なしだからでしょッ! 悠さんがちっともお稼いでこないから、私が遊んで何が悪いっていうのよ!」
「な……ッ!?」
悠が絶句する。だが、ミクの暴は止まらなかった。
「そもそもねえ! このお腹の子だって、あんたの子供かどうかも分からないじゃない!!」
ドス黒い真実が、娘自のから炸裂した。
その言葉に、番の衝撃を受けたのは悠だった。男の顔は青から赤へ、そして瞬にして蒼へと目まぐるしくを変えた。
「お、俺の子じゃない……かもしれないってことか……!?」
悠が掠れた声で問い詰めると、ミクは自暴自棄になったように、醜悪な笑みを浮かべて言い放った。
「らないわよ! あんたとの子か、のの子かなんて、いちいち覚えてるわけないでしょ! 避妊なんて適当だったんだから!」
もはや、夫婦の絆などどこにもしなかった。
互いに嘘で塗り固め、を毟り取るためだけにを組んでいたの化けの皮が、完全に剥ぎ取られた瞬だった。
「ふざけるなッ!!」
悠は激昂し、ミクの胸ぐらを掴まんばかりにを乗りした。
「俺を騙してたのか!? の種を俺に押し付けて、親から千万巻きげようとしてたのかッ!?」
「騙されるあんたがバカなのよ! 偉そうに起業面して、借まみれのくせに! 親のりもない無能男!」
「なんだとこのアマッ!!」
流ホテルの最階ラウンジで、は目も憚らず、罵詈雑言を浴びせいながら醜い掴みいを始めた。
育ちの良さを気取っていた悠も、お姫様のように振るっていたミクも、そこにはいなかった。ただ、己の破滅をにして醜悪に喚き散らす、沼の害虫が匹転がっているだけだった。
私は、その獄絵図のような景を、え切ったで静かに見ろしていた。
胸を痛めることも、りに震えることもなかった。
ただ、の底から、汚らわしいものを見るようなしか湧いてこなかった。
やがて、私は静かにソファーからちがった。
私のきに気づいたのか、の罵りいがピタリと止まり、息を切らしながら私を見げた。
私はに向かって、氷のように研ぎ澄まされた最の言葉を投げかけた。
「……もう、私たちには切関係のない話ね」
私の静かな声が、張り詰めた空気を切り裂く。
「父親が誰かも分からないような子供のために、私たちが円たりともおをす義理はありません」
「お、お母さん……」
ミクの顔に、初めて本当の恐怖のが浮かんだ。
「当事者同士で、沼の裁判でも何でもして解決なさい」
文夫もまたちがり、コートを腕にかけると、たく吐き捨てた。
その瞬だった。
は示しわせたかのように、ホテルの級な絨毯のに両膝をドサリと突いた。
そして、周囲の客やホテルスタッフの線が集まるで、額をに擦り付け、私たちに向かって無様に座を始めたのだ。