"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第11話
届いた脅迫状
「興信所を使って徹底に調べさせてもらったよ」
文夫は淡々と、しかし容赦のない事実を突きつけていった。
「先代が事業に失敗して抱えた、数億円にのぼる巨額の負債。あなた方がんでいるあの見栄えだけの邸宅も、何もの抵当権が設定され、差し押さえ寸のローンまみれだ。悠君の会社設など真っ赤な嘘で、複数の融からも督促状が届いている」
文夫は静かに顔をげ、青ざめて震える母子を見据えた。
「格が違う、とおっしゃいましたね。確かに……これほどの借を抱えながら、平然と名を気取れるその図太さは、々のような真面目な庶民には到底真似できません。さすがは由緒正しいご柄だ」
文夫の言葉には、嘲笑の響きすら含まれていなかった。それがかえって、刃のように鋭く彼らのプライドを切り刻む。
「で、鱈目よッ!!」
かず子は狂ったようにちがり、切り声をげた。
「捏造ですわ! そんな怪文、名誉毀損で訴えてやりますからね!!」
声は震え、全が刻みに痙攣していた。隣の悠は、ハンカチで額から吹きる油汗を必に拭っているが、の震えが止まらない。
「鱈目、ですか」
文夫は静かに胸ポケットから、型のボイスレコーダーを取りした。
「では、これも捏造だと言い張るおつもりですか?」
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カチリ、とボタンが押された。
スピーカーから、ノイズ混じりの音声が流れ始める。
『あそこのバカな庶民から千万ふんだくれば、なんとかなるのよ! い娘を質に取れば、あの抜けな親どもはんでをすわ! それで当面の利息を払って、あとはあいつらのでも担保に入れさせればいいのよ!』
品で、浅ましい、かず子自の鳴り声だった。策にり回り、親戚に借を断られた末に吐き捨てた、決定な肉声の記録だった。
ピタリと、リビングの空気がんだように静まり返った。
今さっきまで私たちを見し、傲に振るっていたハイエナたちの顔から、完全に血の気が引いていた。
名の誇りも、見栄も、優越も、すべてが音をてて剥がれ落ちた。
そこに残されていたのは、借に追われ、のを騙し取ることしかにない、ただのれで醜悪な詐欺師の無様な姿だった。
「ば、母さん……ッ! なんであんなヘマしたんだよ! がつくようなこと言うなよ!」
悠が突如、母親にってかかった。
「何言ってるのよ悠! あなただって若い女と遊び回って、あんな写真撮られてるじゃないの! 全部あなたの始末のせいよ!」
「俺のせいにするな! 借作ったのは母さんたちだろうが!」
醜い責任の擦り付けいが、目ので始まった。
「もうやめてよッ!!」
ミクがを塞ぎ、ヒステリックに叫んだ。
「何なのよこれ! 悠さん、持ちの起業じゃなかったの!? 私、騙されてたってこと!?」
自分も親を騙してを毟り取ろうとしていたくせに、自分が騙されていたとるや否や、被害者面をして喚き散らす娘。その滑稽で浅ましい姿を、私と文夫は、ただただややかに見つめていた。
やがて、文夫がスッとちがった。
「……この調査報告と音声データ式のコピーが、ここにある」
文夫の声が響くと、はピタリとを噤み、怯えたように夫を見げた。
「これを、悠君の勤務先や、あなた方の親戚に『ご相談』という形で送付することも能ですが……どうされますか?」
それは、彼らにとって最も恐ろしい、社会なの宣告にならなかった。
かず子はカタカタと歯を鳴らし、悠はに線を落としたまま、誰として反論の言葉を発することすらできなかった。
「もうお帰りください」
文夫は氷のような差しで玄関を指差した。
「度と、私たちのにその汚らわしい顔を見せるな」
その言葉を図に、ハイエナはまるで霊のようにソファーからちがると、言も発することなく、逃げるようにしてがから崩れていった。
バタン、とドアが閉まり、再びがに静寂が訪れる。
テーブルのには、空っぽのジュラルミンケースと、私たちの完全な勝利を証する調査報告だけが、静かに残されていた。
それから、週ほどのが流れた。
あの以来、ハイエナからの連絡は完全に途絶え、私たちの活には嘘のような平穏が戻っていた。
文夫と私は、失われたを取り戻すかのように、だけの静かな常を過ごしていた。
だが――のどこかで、私たちは分かっていたのだ。
あの欲で浅ましい者たちが、このまましく引きがるはずがないと。
その予は、初のが吹き始めたある、最悪の形で現実のものとなった。
午の郵便受けに、通のい封筒が届いていたのだ。
赤い文字で印字された『内容証郵便』の文字。
差の欄には、見らぬ弁護士事務所の名と――『依頼:悠、ミク』の連名が記されていた。
嫌な予に指先を震わせながら封を切り、文夫が隣でその文面を読み始めた。
だが、読みめる夫の声は、瞬くに激しいりと揺に染まっていった。
「……貴殿らの娘であるミク氏は、現、悠氏の子を妊娠である」
「え……?」
私の臓が、に突き落とされたように縮みがった。
「……しかし、先の貴殿らによる暴挙と精神苦痛が原因で、切迫流産の危に瀕し、母子共に危険な状態にある。よって、慰謝料および今の養育費として、速やかに千万円の支払いを求する。支払いに応じない、胎児に何らかの響がた際は、すべて貴殿らの責任であるとみなし、法措置を講じる……」
夫の音読が止まった。
部のに、凍りつくような沈黙が落ちた。
「千万円……? 私たちの、責任……?」
私の喉から、りと吐き気が同に込みげてきた。
求などではない。
これは、これからまれてくる罪のないが子の命を質に取った、の所業とはえない最最悪の脅迫だった。