"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第8話
静かなる覚悟
「てめえ……ッ!!」
をうような音とともに、文夫が子を蹴ててちがった。
夫の拳はくなるほどく握りしめられ、今にもかず子の顔面に叩き込まれんばかりに震えていた。額には青筋が太く浮きている。
「あなた、やめて……! をしたらあいつらのう壺よ!」
私は痛むを庇いながら、必に夫の腕に縋り付いた。
ここで暴力を振るえば、それこそ格好の実を与えてしまう。警察を呼ばれ、正当な慰謝料などと言われて沼に引きずり込まれるのは目に見えていた。
文夫は荒い息を吐きながら、辛うじて拳を止めた。その体は、抑えきれない憤によって岩のように直していた。
私は夫のにち塞がり、氷のように徹な差しで、目のの母子を正面から見据えた。
「お話になりませんわ。のにがり込み、暴力を振るい、鱈目なを請り取る……。体どういう神経をしていれば、そんな恥らずな真似ができるのですか?」
私の凛とした拒絶に、かず子は怯むどころか、をけて品に笑い声をげた。
「ギャハハハ! あら、怖いこと! でもねえ、がりを言っていられるのも今のうちですわよ」
かず子は嘲笑を含んだ目で、私をからまで値踏みするように見ろした。
「い娘に『バツイチ』のレッテルを貼られて、世からろ指を指される惨めないをさせたくはないでしょう? すべてはあなた方の態度次第。
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……あ、そうそう。これはミクさんも同のですのよ。『親を脅してでも千万させなきゃがない』って、あの子自が言っていたんですから!」
――ミクさんもそう言っていた。
その瞬、私のので、ピンと張り詰めていた最の細い糸が、プツリと音をてて千切れた。
もう、何の迷いもなかった。
何のも、残っていなかった。
悠も、その母親のかず子も、そして何より、私たちが腹を痛めて産み、慈しみ育ててきた実の娘のミクも――全員がグルになって、私たち夫婦を破滅に追い込み、骨の髄までしゃぶり尽くそうと計画していたのだ。
私たちの注いできた以のも、汗流して築いた活も、老の平穏も、あいつらにとってはただ自分たちの欲望を満たすための使い捨ての具に過ぎなかった。
「……帰ってください」
私の声から、すべての震えが消えていた。
ただただ平坦で、底えのするような気だけを孕んだ声だった。
「今すぐここからていかなければ、法侵入と恐未遂で警察を呼びます」
「ふん、言われなくても帰りますわよ! 貧乏臭くて息が詰まりそうだわ!」
かず子は吐き捨てるように言うと、テーブルのの扇子をひったくった。
「千万、きっちり用しておくことですわね! 期は今週末までよ! 悠、くわよ!」
「じゃあね、お父さん、お母さん。
賢い返事を期待してますよ」
悠は最まで侮蔑の笑みを浮かべたまま、母親のに続いてリビングをてった。
やがて、バタンと玄関ドアが閉まり、で級のエンジン音がざかっていく。
嵐がったのリビングには、苦しい静寂だけが残されていた。
テーブルのには、付かずのままえ切ったつの湯みと、赤く腫れた私の。
涙は、滴もなかった。
絶望の向こう側で、私の胸の奥底から湧きがってきたのは、まれて初めて経験する、絶対零度のたいりだった。
許さない。
絶対に、この者たちを許さない。
私たちのをで踏みにじり、嘲笑った罪のさを、骨の髄までいらせてやる。
ふと線をげると、文夫が静かに顔をげていた。
夫の目にもまた、先ほどまでの嘆や戸惑いのは微もなかった。ただ静かに、青い復讐の炎が灯っていた。
「かよ子」
「ええ、あなた」
「戦うぞ。あいつらを……絶対に許さん」
「ええ。私たちのすべてを賭けて、あいつらにいらせてやりましょう」
夫婦の覚悟が、静かに、しかし鉄の結束となって結ばれた瞬だった。
私たちの反撃は、この、誰にもられることなく静かに幕をけたのである。