"月二十五万を貪る偽装役員一家の転落" 第3話
引き裂かれた信頼
文夫はフラつく取りでリビングへ入ると、力なくダイニングチェアに崩れ落ちた。
仕事鞄がに転がり、鈍い音をてる。私は急いで台所からたい麦茶を注ぎ、夫の震えるのに置いた。
「んで、あなた。し息をえて……」
文夫はコップに触れようともしなかった。ただテーブルの目を、血の滲むような目で見つめている。
「俺は……会社をて、いつものに駅に着いたんだ」
文夫のから、途切れ途切れに言葉が零れ落ち始めた。
計の針を、ほんの分ほど巻き戻したの来事だった。
文夫は今、ミクたちがに来るというので、職の同僚にをげて定ぴったりに退社した。駅の雑踏をで抜け、産用の果物でも買おうかと果物の角を曲がろうとしたのことだったという。
「駅ロータリーの、バスのだ。見覚えのあるを着たが、ち止まって話していた」
ミクと、悠さんだった。
文夫は最初、自分の目を疑ったという。予定よりく着いているなら、なぜ連絡もせずこんな裏にいるのか。驚かせるつもりだろうか、それとも何か忘れ物でもしたのか。
笑顔で『ミク、悠君』と声をかけようと、の背へ歩み寄った。
だが、あと数歩という距までづいた、文夫のに、信じられない笑い声がび込んできた。
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それは、父親である文夫のでは決して見せたことのない、品で、嘲笑に満ちた娘の声だった。
『それにしてもさ、ミクの親ってマジでちょろいよな。言えばホイホイすし。結婚式の費用も婚旅代も、全部満額でしやがった』
悠さんの声だった。
あの礼儀正しく、誠実そうに見えた青が、煙の煙を吐きすように吐き捨てた言葉だった。
文夫は、そのに縫い止められたようにけなくなった。聞き違いだといたかった。聴であってくれと祈った。
だが、それに続いたのは、する娘の、疑いようもない返答だった。
『でしょ? うちの親、昔から私の言うことなら何でも信じるバカだからさ。おかげで悠さんの親の借も部返せたんだから、マジで謝してよね』
『あはは、ほんと助かったわ。まさかあんなあっさり数百万すとはわなかった。チョロすぎて笑えるよな』
の品な哄笑が、夕暮れの駅に響き渡った。
バカ親。
ちょろい。
その単語が、文夫の鼓膜を容赦なく切り裂いた。
文夫は全の血が逆流するような衝撃を受け、指先本かせなくなった。息が止まり、臓が握り潰されるような痛みがったという。
私たちが、どれほどのいで質素な活に耐え、爪にを灯して貯めてきたおだったか。
娘のを祝うために、自分たちの老のをすべて投げ打って差しした結晶が、あいつらにとってはただの「ちょろい」
でしかなく、あまつさえ見ずらずの向こうの親の借返済に流用されていたというのか。
だが、悪はそれだけでは終わらなかった。
文夫が愕然とち尽くす、悠さんはニヤニヤと笑いながら、さらに信じがたい言葉を続けたのだ。
『さてと、本番はこれからだな。今ここに来た本題を忘れるなよ』
『わかってるって。業資でしょ?』
『そうそう。会社作るって言えば、あのお父さん、退職崩してでもすに決まってる。いミクの旦が社になるんだからな。とりあえず、まずは千万円を引きさせないと』
『うわ、千万! えぐいねー。でも、それだけしてくれれば、会社なんて適当に形だけ作って、当分は悠さんと遊んで暮らせるかな?』
『余裕だって。俺のためじゃなく、いミクのためって泣き落としすれば、あのバカどもはんでを差しすよ。娘の幸せのためなら、老破産しようがったこっちゃねえしな』
『あはは! 確かに! じゃ、芝居打ってきますか、お父さん好きない娘のフリして!』
はそう言って、産のケーキの袋を持ち直すと、何わぬ顔でがの方へと歩きしたという。
「俺は……」
文夫はガタガタと震えるで、自分の顔を覆った。指の隙から、乾いた掠れ声が漏れる。
「俺は、そのでを鳴りつけ、殴り倒してやりたい衝に駆られた。
だが、が震えてかなかった……。何とかのを追いかけて、がの玄関先まで辿り着いた、おが……おが何もらずに、嬉しそうに迎え入れている声が聞こえたんだ……!」
だからこそ、文夫はドアをけた瞬、あの言を放ったのだ。
度と来るな、と。
夫の告を聞き終えた私は、呼吸の仕方を忘れたようにち尽くしていた。
のが真っになり、目のの景がぐにゃりと歪む。
「嘘……でしょ……?」
絞りした声は、掠れて空気の音にしかならなかった。
あの優しくて素直だったミクが?
私たちのことを「バカ親」と呼び、親の老資を騙し取って、遊んで暮らすための具としか見ていなかった?
「何かの……違いよ、あなた……。聞き違いか、悪い冗談よ……! あの子が、そんなこと……」
現実を受け止めることができず、私は必に首を振った。そうわなければ、っていることすらできなかった。
だが、その微かな希望は、数秒、最も無残な形で々に打ち砕かれることになった。