"元義母の誤爆着信と暴かれた花婿の嘘" 第7話
突然の暗転
夜のを抜けし、俺は気のない幹線沿いを歩いていた。
刻は午分。
え切った夜気配が、を持った頬をよくやしていく。
取りはかったが、胸ポケットにあるUSBメモリーのい触が、俺のを支えていた。
、この証拠を経営陣と松本専務に直接提する。
俺を犯扱いし、無能と罵倒した川部と吉田の顔が、恐怖と絶望に染まる瞬を像した。
だが、そのだった。
青信号を渡ろうと、見通しの良い交差点へを踏み入れた瞬――。
キキキキィィィッ!!
夜の静寂を引き裂く、暴力なスキール音が響き渡った。
ハッとを向いた瞬、網膜を焼き尽くすような烈なのヘッドライトが界を真っに染めげた。
「え……?」
考える暇などなかった。
ドォォォンッ!!
凄まじい衝撃が半を打ちのめした。
体がの葉のように宙に浮きがり、界が激しく回転する。
次の瞬、たくいアスファルトのに背から叩きつけられた。
ゴキリ、と自分の骨が砕ける々しい音が、蓋骨の内側に直接響いた。
「ぐ……あ……ッ!!」
に、焼き鏝を押し当てられたような激痛がる。息が吸えない。肺の空気がすべて吐きされ、界が急速にブラックアウトしていく。
くで響くブレーキ音。
り寄ってくる誰かの叫び声。
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「おい! 丈夫か! 救急を呼べ!」
ざかる識の底で、俺は必にを伸ばし、作業着の胸ポケットを確かめた。
……USBメモリーは、そこにあった。
ピーポー、ピーポーと、くからづいてくるサイレンの音を聞きながら、俺の識はいのへと沈んでいった。
次に識を取り戻した、俺の界に入ってきたのは、見らぬい井と、蛍灯の眩いだった。
「……さん! 気がつかれましたか!」
護師の緊迫した声が聞こえる。
運ばれたのは、内の総病院の救急救命センターだった。
医師からの宣告は非なものだった。
の脛骨砕骨折。幸いにも内臓や部にな損傷はなかったが、骨が複雑に折れており、緊急術と最でもヶの絶対静・入院が必だという。
全治ヶ。即入院。
全に点滴のチューブを繋がれ、ギプスで固められたを吊りげられたベッドので、俺は呆然と井を見つめていた。
、会社にけない。
証拠を提して無実を証するはずだった緊急対策会議に、俺は席することすら叶わないのだ。
「……会社に、連絡しなければ」
痛む体を無理やり起こし、枕元に置かれていた私物のスマートフォンをにした。
画面の計は、朝のを指していた。
震える指先で、川部の社用携帯の番号をタップする。
プルルル……プルルル……。
数回のコール音の、嫌極まりない、眠たげな声が受話から響いた。
『……なんだ、こんな朝くから。誰だ』
「……部、です」
『? お、体どこにいるんだ。今は対策会議があると言っただろうが』
「申し訳ありません。実は……昨夜の帰宅途に交通事故に遭いまして。を複雑骨折し、今、病院のベッドのにいます。全治ヶの傷で、即入院が必だと医師から告げられました……」
痛みを堪えながら、必に状況を伝えた。
どんなに酷な司であっても、部が命に関わる事故に遭ったとれば、最限の労いや配の言葉くらいはあるはずだ――俺はのどこかで、ほんのわずかなの温を期待していた。
だが。
受話の向こうで数秒の沈黙が流れた、返ってきたのは、を疑うような言葉だった。
『……ああ、そうか。好都だな』
「え……?」
俺はを疑った。
『信じられないくらい、ちょうどいいタイミングだよ。おみたいな無能な卒がいなくなって、底せいせいしたよ』
川部の声には、驚きも配も同のも、片たりともしなかった。
それどころか、喉の奥でほくそ笑んでいるような、骨な堵と歓が滲みていたのだ。
『これで今の役員会議も、全部おのせいにして片付けられる。「責任をじて逃した末の事故だ」
とでも報告しておけば、誰も疑わんからな。ちょうどいい厄介払いだ。おは今付でクビにしとくから、度と会社に来るなよ』
「ぶ、部……! 俺は、事故で……!」
『おみたいな疫病神がいるから、会社の評判が落ちるんだよ。入院にでも次の仕事を探すんだな。おなんかに帰る所は、この会社にはもうない。……じゃあな』
ツーツーツー……。
いや、通話は切れていなかった。
川部は終話ボタンを押し損ねたのか、受話の向こうから、ガサゴソという擦れの音と、スピーカー越しの々しい会話が漏れ聞こえてきたのだ。
『……部、誰からだったんですかー?』
甘ったるい、聞き覚えのある声。吉田まみだった。朝から部と緒に社していたのか、あるいは打ちわせでもしていたのだろう。
『だよ。昨の夜、に撥ねられての骨を折って入院したそうだ』
『えっ、マジで!? さん入院!? キャハハ、超ウケるんですけど!』
受話の向こうから、吉田の甲い哄笑が響いてきた。
『ちょうど良かったじゃないですか! あいつ、今の会議で何言いすか分からなくて怖かったんですよねー。これで全部あいつのせいにできますね! 製造部もすっきりするし、ほんと最!』
『全くだ。あいつをクビにして、件落着だ』
の品な笑い声が、痛むの奥にまで響き渡るようだった。
プツリ、とそこで通話が完全に途切れた。
相が通話の画面に気づいて慌てて切ったのだろう。
静まり返った病で、俺はスマートフォンを握りしめたまま、くたい井を見つめていた。
りすら、湧いてこなかった。
ただ、胸の奥底で、巨な氷が音をてて崩れっていくような、絶対零度の虚無だけが広がっていた。
。
誰よりもく社し、油にまみれ、理尽に耐え、会社のためにをにして捧げてきた歳。
その結末が、これだった。
の温かみのかけらもない、酷な廃棄処分。
「……そうか」
乾いた呟きが、唇からこぼれた。
「もう、いいんだな」
議なほど、界が澄み渡っていくのをじた。
あの会社に、俺の居所はない。
あの会社に、俺のを捧げる価値など、ミリたりともしなかったのだ。
川部の「クビにしとく」という言葉は、俺を絶望の淵に突き落としたのではない。
俺を、あの沼のような呪縛から、完全に解き放ってくれたのだ。