"雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長" 第14話
連された元社と静寂の部
「う……嘘よ……こんなの認めないわよぉぉぉっ!」
完全に錯乱した女社が、狂ったように叫びながら俺にびかかろうとした。
「あんたのせいよ! あんたが余計なことをしなければ、私は百億円の英雄として君臨できたのに! ぶっ殺してやるわよぉぉっ!」
振りげられた社の爪が俺の顔面に迫る。
だが、その腕が俺に届くことはなかった。
ガシッ!
チャールズの背に控えていたの筋骨隆々なボディガードが、疾のようなきで割り込み、女社の両腕を背側でがっしりとホールドしたのだ。
「きゃあっ!? な、何すんのよ! しなさいよ! 触らないで!」
屈な男に締めげられ、女社はまるで網にかかった魚のように無様に暴れ回った。
「君、その騒がしい法侵入者をへつまみしてくれたまえ」
チャールズがややかに顎で指示をすと、ボディガードたちは言も発さず、抵抗する女社の両を宙に浮かせたまま、会議のへと引きずっていった。
「しなさい! 私は社よ! この変オタクがぁぁぁ! 私の会社よぉぉぉぉっ……!」
廊に響き渡る断末魔のような叫び声は、分い防音扉が閉まると同に、ぷつりと完全に遮断された。
残された秘の坂神は、泡を吹いて気絶寸の状態でに正座し、警備員によって静かに連されていった。
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談として聞いた話だが、元社と坂神は横領と背任の容疑で警察に逮捕され、会社から巨額の損害賠償を請求されて破滅へのを転がり落ちていったという。
嵐がった会議に、ようやく静寂が戻った。
「ふぅ……」
俺がさく息を吐きすと、チャールズが歩み寄ってきて、肩をポンと叩いた。
「やれやれ、君もとんだ苦労を背負い込んでいたものだね」
「お恥ずかしいところをお見せしました」
「いや、君の鮮やかな腕を再び見ることができて栄だったよ」
チャールズは青い瞳を輝かせ、真剣な面持ちで俺を見つめた。
「どうだいタイガー。こんなドロドロした会社などさっさと辞めて、私と緒にロンドンへ来ないか? が社のグローバル・セキュリティ部の最責任者のポストを用しよう。報酬は君の望む額をいくらでも支払う」
破格のヘッドハンティングだった。世界の頂点につ企業から差し伸べられた、富と名声が約束された黄の切符。
しかし、俺は迷うことなく、穏やかな笑みを浮かべて首を横に振った。
「お遣い、から謝します、チャールズ。でも……俺はここに残ります」
「……なぜだい? 君ほどの才能があれば、世界を台にいくらでも羽ばたけるというのに」
「俺はこれまで、世界をび回り、見えない敵とサイバー空で戦い続けてきました。
それは刺激で充実した々でしたが……この会社で、臭く仲と緒に汗を流す温かさをったんです」
俺の脳裏に浮かんだのは、夜のオフィスで目を輝かせながらコードを見つめていた発チームの顔、そして何より――あの柄で懸命な女性の姿だった。
「俺は、この国で、切な仲たちと共に未来を創りたいんです」
俺の揺るぎない差しを見つめ、チャールズはく息を吸い、やがて満そうに微笑んだ。
「……そうか。君がそこまで言うのなら、引き留めるのは野暮というものだな。気が変わったら、いつでも連絡をくれたまえ」
「ありがとうございます。今回の提携、必ず成功させてみせます」
俺たちはもう度、力く固い握を交わしたのだった。
最終話 チームの絆とし変わったプロポーズ
チャールズたちをビルのエントランスで見送り、の澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んでから、俺はエレベーターに乗って発フロアへと戻った。
自ドアをくぐると、フロア内はを打ったように静まり返っていた。
デスクの島の央に、発チームのメンバーたちが集まっている。その先にっていた追川静が、俺の姿を認めるなり、弾かれたように駆け寄ってきた。
「森本さん……! 商談は……商談はどうなったんですか!?」
鏡の奥の瞳はに揺れ、両は祈るように胸ので握りしめられていた。
社が警察汰になって連されたという噂は、すでに社内を駆け巡っていたのだ。
俺はゆっくりと全員の顔を見渡し、悪戯っぽく元を緩めた。
「無事に、百億円の契約が締結されました」
瞬の静寂。
そして――。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
フロア全体を揺るがすような歓声が爆発した。
「やったぁぁぁっ!」「信じられない、百億だぞ!」「俺たちのシステムが世界に認められたんだ!」
エンジニアたちが抱きい、びね、涙を流してびを分かちっている。
追川静はそのにへたり込みそうになり、溢れる涙を両で拭った。
「よかった……本当によかった……! 森本さん、ありがとうございます……! 全部、森本さんのおかげです……!」
「俺だけの力じゃないですよ。みんなが諦めずに支えてくれたから、最のシステムが完成したんです」
俺は彼女のにしゃがみ込み、ポケットから清潔なハンカチを取りして渡した。昔、父のを拭っていた母のように。
その、藤グループの統括会が直接発フロアを訪れ、追川静をたな発部に任命し、俺には特命最技術顧問の役職が与えられた。理尽な搾取の代は終わりを告げ、会社はエンジニアファーストの健全な組織へとまれ変わったのだ。
母の病状も本の療養環境のおかげで劇に回復し、腰を痛めて帰国した父と共に、穏やかで幸福な常を取り戻していた。
父は今でも庭のころを眺めては「ロマンだ!」と騒いでいるが、母は「しょうがないわね」と笑ってそれを受け止めている。
数ヶの、夕暮れ。
すっかり理され、温かいに包まれたオフィスで、俺と追川静は並んで残業のの珈琲をんでいた。窓のには、夕に染まる美しい並みが広がっている。かつてハロルドが教えてくれた、浅葱と茜が混ざりう本の美しい黄昏だった。
「森本さん」
珈琲カップを持った静が、ふとこちらを見げた。
「あの商談のから、毎がのようです。私たちの作ったシステムが、世界の々の活を裏側から守っているんだとうと……胸がくなります」
「ええ。美しいシステムは、々の暮らしをより豊かに、鮮やかに彩ってくれますからね」
俺はカップをデスクに置き、静の正面へと向き直った。
に真剣になった俺の気配を察したのか、静の頬が微かに赤く染まる。
「追川さん」
「は、はい……!」
「俺はこれまで、世界を放浪し、孤独なサイバー空ののできてきました。でも、あなたと会い、チームで働くびをって……初めて、自分の本当の居所を見つけることができたんです」
俺は呼吸をし、彼女の真っ直ぐな瞳をしっかりと見つめた。
「これからも、ととがを温かく通わせえるような……美しく理で、世界を優しく守るシステムを、俺と緒に作ってくれませんか?」
静は瞬、目を丸くしてポカンとした。
そして、その言葉が持つ本当のに気づいた瞬、彼女の顔はの先まで真っ赤に染めがった。
「それって……その……お仕事の話、だけじゃないですよね……?」
「ええ。これからの俺のの、すべてのを懸けたお願いです」
静の瞳に、粒の温かい涙がじんわりと溢れた。
彼女は鏡を指先でクイと押しげ、これまでに見たこともないほど眩しい、満面の笑顔を咲かせた。
「……もちろん! んでお受けします!」
夕暮れのオフィスに、の柔らかな笑い声が溶けていく。
し変わった、理系男子ならではのプロポーズ。
けれど、ロマンを追い続けた父の血を引き、美しいアルゴリズムをする俺にとっては、これ以なく完璧で、最に幸福なコードの結びだった。