"雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長" 第9話
学歴を隠した就職と「変オタク」のレッテル
久しぶりに戻った本は、良くも悪くも閉鎖で、秩序と形式をんじる社会だった。
母の通院とリハビリを支えながら、俺は本の社会に馴染むため、国内のIT企業で普通に働いてみようと考えた。
だが、ここでわぬ壁にぶち当たった。
ハーバード学期卒業、MIT学院修、世界企業のセキュリティ顧問――そんな本物の履歴を提すると、本の事担当者たちは様に眉をひそめ、「経歴詐称ではないか」「うちのような会社にこんな怪物が来るはずがない」「協調性がなさそうだ」と、類選考の段階で気流してしまうのだ。
「面倒だな……」
自分の真の肩きなど、本で穏やかに暮らすでは邪魔になるだけだった。
そう悟った俺は、履歴を極限までシンプルにき直すことにした。最終学歴は「学卒業」。以は「ホームスクールにて学習」。自己PR欄には「基本なプログラミングとパソコン操作が能」とだけ記載した。
そんな奇妙な履歴に目を留め、採用してくれたのが、都内のベンチャー「藤システム発」だった。
だが、それも放しで歓迎されたわけではなかった。
「本当はね、あなたみたいな学歴で素性のれない男なんて、雇うつもりは毛なかったのよ」
社の豪奢な革張りソファに踏ん返り、を組み替えた藤薫社は、煙を燻らせながら酷な線を俺に投げつけた。
広告
「専務がどうしてもがりないって泣きついてくるから、仕方なくおけで拾ってあげたの。病気のお母様がいるんでしょう? ありがたくいなさい。無能なりに、会社の隅で懸命働くことね」
「……ご配慮、ありがとうございます」
俺は々とをげた。どうやら病気の母親を抱えるれな苦学という設定が、社内での彼女の「けい女社」というアピールに利用されたらしい。それにしても、社のくせに専務の推薦を断りきれないあたり、この会社の歪な力関係が透けて見えたが、俺には関係のないことだった。
俺は発部に配属され、システムエンジニアとして働き始めた。
聞けば、この藤システム発は、社運を賭けて「世界に先駆けた対サイバー攻撃アラートシステム」の構築をめているという。のメガIT企業との百億円の商談を取り付け、その目玉商品として売り込む計画らしい。
配属初、俺はさっそく現発だというシステムのソースコードを拝見させてもらった。
そして――絶句した。
「……なんじゃこりゃ」
わず呟きが漏れた。
画面面に広がるコードは、スパゲッティのように絡まりい、冗な記述と致命な論理エラーのだった。最の脅威に対する防御などのまた。これでは部からの攻撃を防ぐどころか、負荷をかけただけで自壊する代物だ。
「今、このシステムはどんな状況なんですか?」
通りかかった女社に尋ねると、彼女はブランドバッグを揺らしながら胸を張った。
「来の百億円商談に向けて、最終調よ!」
「……これで、ですか?」
わず本音がから滑りた瞬、社の目が吊りがった。
「なによその言い! あなた、まれてからずっとパソコンばかり弄ってきたんですってね? どうせ部に引きこもってゲームばかりやってたんでしょ! とんだオタクの変ね! そんな無能に、この崇なシステムの何が分かるっていうのよ!」
社はツカツカと詰め寄り、俺の胸元を差し指で突いた。
「だいたい、ホームスクールなんて引きこもりの言い訳でしょ! 変オタクの無能は、コードに指本触れないで! みんなの邪魔にならないよう、部の隅で掃除でもしてなさい!」
「……分かりました。掃除ですね」
「いい分ね、掃除だけでお料がもらえるなんて。清掃会社にでも転職すればよかったのに!」
捨て台を吐いてっていく女社の背を見送りながら、俺は静かに溜息をついた。
世界をらないほど、自分の狭い檻ので傲になれるらしい。