"雑用係の逆襲――百億の商談と偽りの女社長" 第6話
才数学者ハロルドとの邂逅
「母さん、父さんの好き勝に付きってて、本当にいいの?」
期に差し掛かった頃、言葉も通じない異国の宿で、俺は母に満を漏らしたことがある。
「勝すぎるよ。言葉も通じない所にいきなり放り込まれる俺のにもなってほしいよ」
母は洗濯物を畳みながら、ふふっと穏やかに笑った。
「しょうがないじゃない、お父さんなんだから」
父と母は幼馴染だった。だらけになって川底を掘り返す父に、「しょうがないね」と笑ってハンカチを差しす母。は子供の頃からずっと、そうやってきてきたのだ。マイペースすぎる父と、すべてを包み込む母。それはある、世界最の夫婦だったのかもしれない。
普通なら勝な期張や放浪を繰り返せば学を解雇されてもおかしくないはずだが、どこの研究関も文句を言わず、く父の籍を受け入れてくれた。それだけ父の学者としての腕が突しており、としてされていた証拠拠だったのだろう。
だが、そんな変わりな父の周囲には、なぜか世界からび抜けて優秀な識たちが集まってきた。
ノーベル賞級の学者、流企業の経営者、気鋭の政治、世界な推理説。普通の活を送っていたら会えないようなたちが、父のテントや斎に当たりのように入りしていた。
広告
そののに、ハロルドという男がいた。
彼は歳のに独学で度なプログラミング言語を習得し、わずか歳でマサチューセッツ科学(MIT)を卒業。歳にしてコンピュータサイエンスの教授に就任したという、正真正銘の才数学者だった。
「理かつ効率なアルゴリズムは美しい」
ワイングラスを片に語るハロルドに、のついた作業着の父が頷く。
「ああ。考古学には理性だけでは測れない悠久の美しさがある。美しいものは素らしいな、ハロルド君!」
「ええ、ミスター森本。美こそが世界の真理です」
凡庸な俺から見ればの会話は全く噛みっていないようにえたが、彼らは互いに微笑みい、魂のレベルでく共鳴しっていた。
そしてハロルドは、父の息子である俺にい興を示してくれた。
「タイガー、君は考古学よりもアルゴリズムのだね」
ハロルドは俺を「タイガー()」と呼んだ。温で掴みどころのない父と違い、鋭い反骨精神と隙のない性を秘めた俺の気質を、虎のようだと言って気に入ってくれたのだ。
「俺には父さんの言う形のロマンは分からないよ」
「なるほど、気がいそうだ。何か学びたいことはあるかい?」
「数学を教えてくれよ」
「残だが、私はに教えるのが絶望になんだ。
教授職にあるのが議なくらいにね」
ハロルドはおどけて肩をすくめた。
「だが、コンピュータシステムとプログラミングの構造なら教えられる。世界の裏側を記述する言語だ」
「……それでいい。基礎を教えてくれたら、あとは自分で勝に勉する」
俺の返答を聞いた瞬、ハロルドの青い瞳が歓に揺れた。
「素らしい! タイガー、君は必ず成する。私の持つすべてを君に授けよう」
そのを境に、ハロルドは寸暇を惜しんで俺にコンピュータサイエンスの淵を叩き込んでくれた。父とは全く異なる論理で研ぎ澄まされた背を見つめながら、俺は貪るように識を吸収していった。