"「子どもを産めない」と捨てられた妻の逆転" 第6話
初の柔らかな陽が、実の縁側に敷かれた青畳を穏やかに照らしていた。
庭先では父・信郎が丹精込めて入れしている葉松の枝が、よいに揺れている。台所からは母が昼餉の支度をする包丁の規則正しい音が響き、急須から注がれたばかりのほうじ茶のばしい湯気がふわりとちっていた。
「かな子、顔がずいぶん良くなったな。よく眠れたか」
縁側の引き戸をけ、作業着姿の信郎が庭からがってきた。剪定鋏を縁台に置き、娘の顔を覗き込むその双眸には、実業の世界をき抜いてきた者特の鋭さと、娘へのい慈が滲んでいた。
「うん。昨夜は久しぶりに、度も目を覚まさずに朝まで眠れたわ」
かな子は湯呑みを両で包み込みながら、静かに微笑んだ。あのえ切ったコンクリートマンションで、夜遅くに響く音や罵声に怯えながら過ごした々の緊張が、実の温もりに触れてゆっくりと解けていくのをじていた。
昨の朝、役所の戸籍課窓で受理印が押された婚届を見届け、そので最限のの回り品を積んだタクシーをらせて実へ戻ったのだ。誠の署名と捺印が揃った届は、職員のによって何の続きの滞りもなく受理され、かな子の籍はすでに旧姓へと戻っていた。
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だが、その平穏な静寂を切り裂くように、茶袱台のに置かれていたスマートフォンがけたたましい子音を鳴り響かせた。
ヴー、ヴー、ヴー。
激しい振がの板を叩く。画面に目を落としたかな子は、わず眉をひそめた。
ディスプレイに赤く表示されている発信者名——『誠』。
画面の部には、驚くべき数字が並んでいた。【着信 31件】。
通話履歴を確認すると、午から現までの約、ほぼ分刻み、には分隔で執拗にコールが繰り返されていた。らかに正気を失ったの掛け方だった。
「……誠君からか」
信郎が険しい表で画面を瞥した。
「無してもいいんだぞ。もう法には赤のだ。何か言いたいことがあるなら、弁護士を通せばいい」
「ううん、丈夫よお父さん」かな子は静かに首を横に振った。「あの男がどれほど無様に狼狽えているのか、度こので確かめてやりたいの。それに、途半端に逃げ回っているとわれたら、実に押しかけてくるかもしれないしね」
かな子はく息を吸い込み、通話ボタンをスライドさせてに当てた。
「もしもし」
努めて淡に、を押し殺した声をした瞬だった。受話器の向こうから、鼓膜を破らんばかりの狂乱した声が炸裂した。
『かな子ォッ! てめえ、何回話かけさせる気だ! どこほっつき歩いてんだよ!』
息せき切った誠の声は、いつもの傲な響きを失い、恐怖と焦燥で甲く擦っていた。
「何の用かしら。私はもうあなたの妻じゃないのよ。婚届は昨正式に受理されたわ」
『そんな切れの話はどうでもいいんだよ! 頼むから、今すぐ! 今すぐに戻ってきてくれ! このままじゃ俺、んじまうよ!』
話から聞こえてくる誠の懇願に、かな子は笑を漏らした。、リビングで勝ち誇ったように「役たずの欠陥ババア」「百万払え」と喚き散らしていた男と、同物とはえない醜態だった。
「帰る? どうして私がそんなことをしなきゃいけないの? あなたには、若くて嬌があって、あなたの子どもを産んでくれる素らしいお相がいるんでしょう?」
『そ、それなんだよ! その話なんだよ!』
誠が半泣きになりながら、を抱えている気配が伝わってきた。背からは、ガチャガチャと何かが割れるような鈍い物音と、女性の甲い罵声が微かに混ざりっている。
『るいが……るいがとんでもねえ女だったんだよ!』
誠のから語られた「同居目」の惨状は、滑稽極まりない獄絵図だった。
かな子がをたそのの午、誠は気揚々と倫相の園寺るいをマンションに招き入れた。婚同然の甘い活が始まると信じ切っていた誠を待っていたのは、像を絶する現実だった。
『あいつ、事なんてつもできねえんだ! 料理どころか米の研ぎ方すららねえし、洗濯も回せない! 朝飯にトーストを頼んだら丸焦げにしてフライパンをパーにしやがった! 掃除も切しねえから、リビングゴミだらけだ!』