"偽りの血液型" 第9話
「ちょっと! 何するのよ慎司! 邪魔しないでちょうだい!」
「いいから、帰るんだ! これ以、さやかさんたちに迷惑をかけるな!」
「しなさいったら! さやかさん、お願いよ、話を聞いて——!」
喚き散らし、爪をてて暴れる苗を、慎司は引きずるようにして応接のへと連れしていった。 教先や警備員が呆然と見送る、廊の向こうへ消えていくの音。 残された私は、え切った応接ので、膝の震えを抑えることができなかった。 の因縁が、なぜ今になって突然、こんな形で蘇るのか。 のが疑問符で埋め尽くされ、私はただち尽くすしかなかった。
事の真相がらかになったのは、それからのことだった。 慎司から連絡を受け、私は仕事を終えた、かつて会ったあの駅の喫茶へと向かった。 内の番奥のボックス席に、慎司は疲弊した面持ちで座っていた。
「さやかさん……先は本当に申し訳ありませんでした。母がとんでもない迷惑をかけてしまって……」
席に着くなりをげる慎司に、私は首を横に振った。
「いいえ……慎司さんが謝ることではありません。それより、体何が起きているんですか? お義母さんのあの変わりよう……ただ事ではないように見えました」
慎司は鏡をし、眉を指でく揉んだ。そして、い調で告げた。
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「……母さんは、父さんにを追いされたんです。兄貴と緒にね」
「え……!?」
わず声が裏返った。 あの世田の豪邸から、院夫である苗と、男の勇吾が追いされた? にわかには信じがたい言葉だった。
「それで……父さんが、さやかさんと凛ちゃんに会いたがっているんです。昔のことを……直接、座して謝りたいって」
「ちょ、ちょっと待ってください、慎司さん! 話がびすぎていて、私には何が何だかさっぱり分かりません!」
混乱する私を見て、慎司はさく苦笑し、再び鏡をかけた。
「……そうだね、ごめん。僕もまだ、事態の急展にが追いついていなくて。……順を追って話すよ。まず、番事なことから話そう」
慎司は真っ直ぐに私の瞳を覗き込み、言言を噛み締めるように言った。
「凛ちゃんの父親は、違いなく兄貴——本勇吾だよ。遺伝子鑑定で、完全に証された」
、の奥底に刺さり続けていた見えない棘が、チクリと音をてて疼いた。 やはりそうだったのだ。私は誰とも倫などしていなかった。 だが、その堵と同に、抑えきれない疑問が噴きした。
「でも……もし勇吾さんの子供なら、なぜ凛はあんな綺麗な髪でまれてきたの!? 顔ちだって、私にも勇吾さんにも似ていないわ! なぜなの!?」
私の痛な問いに、慎司は静かに頷いた。
「凛ちゃんがさやかさんや兄貴に似ていないのは、当然なんだよ。
極めて稀なケースだけど……【隔世遺伝】だったんだ」
「隔世遺伝……?」
「そう。……実はね、兄貴は、父さんの子供じゃなかったんだ」
慎司のから放たれた衝撃の事実に、私の考は完全に止した。
「え……? 勇吾さんが、お義父様の子じゃない……? それって……」
「そうだよ。に倫をしていたのは、さやかさんじゃない。……母さんの方だったんだ」
喫茶の静寂の、慎司のから語られた真実は、私の像を遥かに絶するおぞましいものだった。 今から数、義父・直と結婚してもない頃、苗は通っていた英会話教のアメリカ講師——いや、正確には英国の髪の男性講師とい倫関係に陥った。 そして、その倫関係の最にごもり、産み落とした子供こそが、男の勇吾だったのだ。
「兄貴はね、父親が英国であるにもかかわらず、奇跡に母親である母さんのアジア系の遺伝子をく受け継いでまれてきたんだ。肌のも髪のも黒く、見すると純粋な本にしか見えなかった。母さんはそれをいいことに、父さんを騙し、兄貴を『本の男』として育てげたんだよ」
だが、悪魔のような欺瞞は、世代をび越えてを剥いた。 勇吾と私のにまれた娘・凛が、勇吾のに眠っていた英国の祖父の遺伝子を濃く受け継ぎ、眩いばかりの髪を持ってまれてきたのだ。
「産を担当した助産師から『まれた赤ちゃんが髪だ』と聞かされた瞬、母さんは血の気が引いたはずだよ。