"偽りの血液型" 第8話
私が懸をにすると、慎司はきっぱりと言い切った。
「それは、さやかさんが配することではありません。僕が、自分で決めたことです」
その揺るぎない差しに、私は言葉を失った。 それ以来、慎司はに度、必ず実のくまで顔をし、凛の成を見守り、私を支えてくれるようになった。 そして、残酷なまでに無なは、音もなく流れていった。
あれから、の歳が流れた。 まれたばかりだった凛は、すくすくと健やかに成し、今で学になっていた。 赤ん坊の頃に麦の穂のようだった髪は、成するにつれて艶やかなプラチナブロンドとなり、本れしたいと抜群のスタイルを持つ女へと育っていた。 学活を謳する凛が何よりもになっていたのが、ヒップホップダンスだった。 元のダンススクールに通い、持ちのいをダイナミックに躍させて踊る凛の姿は、民祭りや域のダンスイベントで常に注目のとなっていた。 最では、イベントの観客が撮した凛のダンス画がSNSに投稿され、「使のような髪の美女ダンサー」として、ちょっとしたバズを引き起こすまでになっていたのだ。
そんなあるの午。 勤務先のフラワーショップで、鮮やかな薔薇の揚げ作業をしていた私のエプロンのポケットで、スマートフォンが鳴った。
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画面を見ると、見慣れた固定話の番号——凛の通う学からの着信だった。 胸騒ぎを覚えながら、私は濡れたをエプロンで拭いて通話ボタンを押した。
「はい、尾です」
『あ、尾凛さんのお母様でしょうか? 私、学で教を務めております者ですが……』
「教先、いつもお世話になっております。凛が何かやらかしましたでしょうか……?」
『いえ、凛さんご本のトラブルではないのですが……実はお母様、【本苗】さんというお名の方をごでしょうか?』
その名が受話器からびした瞬、私の臓がドキンとねがり、呼吸が止まりかけた。
「……っ! は、はい……昔、婚した夫の母親です……」
『実はですね、その本さんと名乗るご齢の女性が、今、学のから無断で侵入されまして、職員で「孫の凛に会わせろ」と変な騒ぎを起こしておられるのです』
「な、なんですって……!?」
私はにをげて退の許をもらうと、の裏にめてあった自転にび乗り、ペダルが軋むほどの猛スピードで学へと向かった。 正をくぐり、職員へ駆け込むと、私はすぐに階の応接へと通された。 い製のドアをけた瞬、私のはピタリと止まった。
革張りのソファに腰掛けていた老女の姿。 それは、私の記憶のにある「華やかな元女優」「美貌の院夫」
とは、あまりにもかけれた、変わり果てた姿だった。 入れのき届いていたはずの豊かな髪は髪混じりでボサボサに乱れ、級ブティックのドレスではなく、毛玉だらけのくたびれたカーディガンを羽織っている。肌の艶は完全に失われ、頬は痩せこけ、貧相でみすぼらしい老婆がそこにいた。
「……お久しぶりね、さやかさん」
掠れた声で私を見げる苗。 私はりと困惑で震える声を絞りした。
「どういうつもりですか……!? 今更、なんの権利があって娘の学にまで押しかけてくるんですか!」
「凛ちゃんのダンス画をね、SNSで見かけたのよ……。あの髪、あの顔ち……違いないとったわ。ここへ来れば、凛ちゃんとあなたに会えるとって……」
かつて私を「尻軽女」と罵り、産週の私とまれたばかりの凛をに迷わせた張本が、何を言っているのか。 私の軽蔑の線に耐えかねたのか、苗は突然ソファから滑り落ちるようにちがり、私の両腕を力任せに掴んできた。
「お願いよ、さやかさん! 凛ちゃんと緒に、に戻ってちょうだい!」
「……はあ!?」
を疑う懇願に、私が腕を振り払おうとした、そのだった。
「やめろ、母さんッ!」
勢いよく応接のドアがき、肩で息を切らした慎司がび込んできた。
「慎司……さん!?」
いがけない救世主の登に、私は息を呑んだ。
慎司は私を瞥して無事を確認すると、すぐさま苗の両腕を羽交い締めにし、力任せにソファから引き剥がした。