"妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった" 第9話
たいが吹き始めた、の終わりのことだ。
総郎と私は、あの訪れた本の老舗料亭を、再び訪れていた。
派な個で、コースの最の料理として、おなじみの粒の焼き牡蠣がされた。
主は、部に入ってくると、廊の壁に掛かっていたあの「値段の無い古い札」をに持ち、静かに私たちのに座った。
「旦様。私には、15、どうしても申しげられなかったことがあります」
主は、札を両で持ちながら、ゆっくりと語り始めた。
総郎の父である平は、とても貧しい、のしがない牡蠣漁師だったという。
平がどれほど丹精込めて最の牡蠣を作っても、昔のこの格式い料亭は、決まった特定の仲買からしか、材を仕入れることはなかった。
平は、何度払いをされて断られても、決して諦めなかった。
毎、の寒い期になると、彼は黙って料亭の裏に、自分が育てた最の牡蠣をそっと置いていった。
自分の名も、売値の値段も、切かずに。
先代の主は、所の分からないその牡蠣を、客にはすことができず、族や板たちとまかないとしてべていたそうだ。
「15のことです」
主は、懐かしむように目を細めた。
「先代は、初めて、お父様が届けたその牡蠣を、正式な料理として客にす決をいたしました。
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そして、壁に『牡蠣』とだけかれた札を掛けたのです」
主は、にした古い札を見つめた。
「名も値段もかれていない牡蠣に、値段をつければ、それは正式な『仕入れ』になります。これは、受け取り続けたお父様のへの、先代なりの返事でした」
主は、ふっと言葉を切った。
「ところが、その札を掛けた、わずか3。あの猛烈な嵐が来たのです」
平は、嵐のから、度と戻ってはこなかった。
彼は、自分の育てた牡蠣が、ついに憧れの料亭の献に載ったことをらないまま、この世をってしまったのだ。
総郎は、主のにある古い札を見つめたまま、微だにしなかった。
「親父は、にまともなも入れず、ただに牡蠣を配って歩くようなでした」
総郎の声は、かすかに震えていた。
「俺は、親父のことを、ずっと族を困らせただけの、駄目なだとっていました」
主は、総郎の言葉に静かに首を振って答えた。
「そのお父様の牡蠣に救われたが、現にここにいます。そして今度は、息子のあなたの牡蠣が、倒れかけたこのを救ってくれました」
総郎の、膝のに置かれたきなが、刻みに震えていた。
「どうして……どうして、もっとく、そのことを教えてくれなかったんですか?」
彼は、泣くのを堪えるように声を絞りした。
「あなたには、きお父様の『代わり』として、このを救って欲しくはなかったからです」
主は、くをげた。
「神総郎さん自として、誇りを持ってここへ来て欲しかった。ただ、それだけなのです」
総郎は、両で顔を覆い、静かに泣き崩れた。
私は、震える彼の広い背に、そっとを置いた。
『誰かの代わりではない』
それは、彼が私を救ってくれたにくれた、切な言葉だった。
そして今、その言葉が15といういを越えて、彼自の元へと戻ってきたのだ。
しばらくして、総郎は涙を拭い、顔をげた。
主は、あらかじめ用していた真しいの札と、と墨を、総郎の目のへ静かに置いた。
「今は、ご自ので、おきになりませんか?」
総郎は、嵐のの怪の傷跡が残るで、ゆっくりとを持った。
うように指がかず、最初の画をくが、しだけ震えた。
それでも、彼はじっくりとをかけて、力くこうきげた。
『神総郎の牡蠣 1200円』
決してな字ではなかったけれど、主はその真しい札を受け取り、父親のいた古い札のすぐ隣に掛けた。
値段のない、父の古い札。
息子の名と、はっきりとした値段が入った、しいの札。
つの札が、15のを超えて、ついに並んだのだ。
総郎は、ちがり、父の古い札にそっと触れようとして、途でを止めた。
そして、胸ので両をわせ、く1度だけをげた。
「親父。やっと、同じに並べたな」