"妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった" 第5話
けれど、私がそのことについて総郎本に尋ねても、彼はいつも決まった言葉しかにしなかった。
「みんな、当たりの仕事をしただけです」
彼は、照れくさそうに線を逸らし、それ以は何も語ろうとはしなかった。
そんなある休のことだった。
総郎は、「たまにはで事をしよう」と言って、私を本の老舗料亭へと連れしてくれた。
そこは、表に板つなく、紹介のある予約客しか入れないという、格式いだった。
私たちがい簾をくぐって内に入った途端、カウンターの奥にいた主がにしていた包丁を置き、々とをげた。
「旦様、奥様。いつものお席へどうぞ」
主は、最級の敬を払って私たちを奥の個へ案内した。
次々と運ばれてくる料理は、これまで私が名も聞いたことがないような、級な魚介ばかりだった。
私は、緊張しながらも、その繊細なに舌鼓を打った。
そして、コースの最に、見事な粒の焼き牡蠣が1つ、皿に乗ってされた。
主は、正座をして総郎の顔をまっすぐに見つめ、をいた。
「このが今もこうして残っているのは、すべて旦様のおかげでございます」
主は、慨げに10の来事を語り始めた。
「10、先代が急にくなり、常連客が次々とれていき、私はこのの閉を決しておりました。
広告
そのです」
主は、総郎の方へ向き直った。
「総郎様が、毎朝、ご自で獲った最良の魚介を、勝に裏へ届け始められたのです」
主は、目を押さえながら言葉を続けた。
「『代は、がち直ってからでいい。どうか、ここを閉めないでください。このを待っているがいるから』と。そう言って、半、1円のおも受け取ろうとなさいませんでした」
私は、驚いて夫の顔を見た。
総郎は、主の言葉を聞いても表を変えることなく、ただ黙って湯呑みのお茶をんでいた。
帰り際、私は廊の壁に掛けられている、古びた札に目が留まった。
そこには、ただ言、「牡蠣」とだけ、でかれていた。
たった2文字。値段も、産者の名も、そこには切かれていなかった。
「あれは、何ですか?」
私が主にそう尋ねると、主の表がさっと変わった。
しかし、総郎が静かに首を横に振ったのを見て、主はを閉ざした。
結局、その札についての話は、そこで終わってしまった。
それから半が過ぎた頃、猛烈な嵐が私たちのむ島を襲った。
夜、暴によって柱が倒れ、島全体がに見われた。
真っ暗の、加の蔵設備が完全に止してしまった。
総郎は、蔵庫のの産物を守るため、激しいのを1でへびし、非常用発をかそうとした。
しかし、で倒れてきたい鉄の扉から、駆けつけた従業員をを挺して庇い、彼は腕に怪を負ってしまったのである。
幸い、病院へ運ばれた彼の命に別状はなかった。
だが、失われたものはきかった。
設備の完全な修理には、1000万円い莫な費用がかかることが判し、港の老漁師たちのも、嵐の被害で無残に壊れていた。
私は、誰もいない事務所の机に座り、震えるで初めて会社の帳簿をいた。
数字を追うごとに、私は血の気が引いていくのをじた。
机の引きしの奥からは、から届いた分い督促状の束もてきた。
次の支払いまでは、あとわずか2週しか残されていない。
もしこのまま設備がかなければ、取引を続けてきた旅館からのの注文も、すべて断ることになってしまう。
そうなれば、この港で働く44の従業員たちの仕事が、完全に消滅してしまうのだ。
さらに、私は机のにあった見慣れない類に目を落とし、息を呑んだ。
総郎は、自分の命保険を担保に入れて、から追加の融資を引きそうとしていたのだ。
私は、その類を握りしめ、急いで彼の入院する病へと向かった。
「これに、署名するつもりだったの?」
私は、ベッドに横たわる総郎の目のに、その類を突きつけた。
総郎は、私と目をわせようとせず、そっと線をそらした。
「に、守れるものがありません」
彼は、絞りすような声で言った。