"妹が断った牡蠣漁師は、港の社長だった" 第4話
彼は、黙って私の話を聞いていたが、やがて私の赤く腫れた指先をじっと見つめた。
「悔しいですか?」
彼は、静かにそう問いかけた。
「はい」
私が力なく頷くと、彼は私の目を見た。
「なら、あなたは誰かの代わりなんかじゃない。ただの腰掛けのは、失敗しても、そんな悔しそうな顔はしません」
私は、彼の言葉にハッとして顔をげた。
翌朝、私が仕事にかけようと玄関へ向かうと、そこにはさな包みが置かれていた。
には、私のさなにぴったりとう、しいゴム袋が入っていた。
私は、その袋を胸に抱きしめ、く息を吸い込んだ。
それからというもの、私は毎休むことなく加へ通い続けた。
1週には、若牡蠣をきさごとに素く仕分けられるようになった。
そして1ヶには、ついに荷箱の梱包作業を任されるまでになった。
ある朝のことだった。
私が荷の準備を終えた箱のうち、1つだけが戻されてきた。
箱のには、規格よりぶりの牡蠣がいくつか混じっており、旅館からの注文条件とわなかったというのだ。
現の責任者である玲子さんは、厳しい表のまま、その箱をドンと私のに置いた。
「織さんが、最に確認した箱だよね」
玲子さんは、私をじっと見据えて言った。
「すみません。すぐに私がやり直します」
私は、くをげて謝罪した。
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そのの昼休み、皆が休憩へ向かったも、私はそのに残った。
そして、戻された箱の牡蠣を1つずつ取りし、丁寧にさを測り直していった。
夕方になり、老漁師の源蔵さんが加へ入ってきた。
私がミスをして戻された箱は、彼がたいで半かけて、塩にかけて育てた牡蠣だったのだ。
私は、激しく叱られるだろうと覚悟し、体をこわばらせた。
しかし、源蔵さんは、私がしくき直した荷札をに取り、まじまじと見つめてからをいた。
「あんた、字が読みやすいな」
源蔵さんは、予の言葉をにして、私の顔を見た。
「牡蠣のサイズを違えたのは、私です」
私は、申し訳なさにうつむきながら言った。
源蔵さんは、ふっと笑みをこぼした。
「誰が直したか、ちゃんと分かる方が事だ。自分の名をいたなら、次はもう同じ違いをせんじゃろ」
私は、源蔵さんのその言葉に、はっと顔をげた。
そのを境に、私は荷札の隅に、必ず担当者である自分の名をさくき添えるようにした。
最初は、「面倒だ」と嫌がっていたの従業員たちも、私が続けるのを見て、やがて自分から署名するようになっていった。
議なことに、荷札に自分の名が入るようになると、箱のの牡蠣は、以よりもずっと丁寧に、美しくえられるようになったのである。
ある、私は事務所に入って、壁を見て息を呑んだ。
総郎が、私が番最初に失敗してき直した、あの荷札を1枚、壁の番目つ所に画鋲で貼っていたのだ。
「どうして、あんな失敗した札を織さんがここのになった最初の札だからって、貼っているんですか?」
私は、顔を赤らめながら彼に尋ねた。
総郎は、壁の札を見つめたまま、静かに答えた。
「織さんが、ここのになった、その最初の歩の証だからです」
私は、気の利いた返事もできず、ただ壁の札を見つめたまま、こみげてくる涙を必にこらえた。
私は、港のたちとの会話を通じて、総郎というの本当の姿をしずつるようになっていた。
休憩にお茶をみながら、皆が々に彼への謝を語ってくれたのだ。
玲子さんは、夫を突然くして働きがなく途方に暮れていたところ、総郎がでも仕事ができるようにと、借をしてこの加を作ってくれたのだと教えてくれた。
台で切な作業を失ってしまった職の老夫婦は、総郎が彼らを自分のに乗せ、2ヶもかけて隣の旅館やの駅へ営業に回り、仕事を取ってきてくれたと泣きながら語った。
また、の修理代が払えずに困っていた老漁師たちの牡蠣を、総郎が何もの、の相よりもずっとい値段で買い取り続けていたこともった。
さらには、に度、元の児童養護施設へ、自分の名を伏せたまま鮮な産物を匿名で届け続けていることも。