"妹のドレスを二十センチ切った" 第18話
最列にいた専務が、目を見き、かけていた縁の鏡を指で押しげた。 親族の女性たちが、扇子やハンカチで元を押さえ、隣のと顔を見わせる。
「……え?」 「嘘でしょ……?」 「……あの傷……」 「ドレスが……切れてる……?」
さざ波のような囁き声が、オルガンの音の隙を縫って、瞬くに最列まで広がっていった。
異様な景だった。 背には、メートルもの優雅で豪奢なミカドシルクのトレーンが、波打つように美しく引かれている。 しかし、正面の裾だけが、膝で無残に切り落とされているのだ。
歩をめるたびに、美玖のの傷痕がわになる。 腿部から移植された、皮膚の引きつれ。 赤黒く盛りがったケロイド。 何箇所もの縫の跡が、ステンドグラスの青や赤のを浴びて、々しく、残酷に浮かびがっていた。
普通なら、恥辱に耐えかねて逃げすか、顔を覆って泣き崩れるような状況だった。 だが、美玖は違った。
美玖は、バージンロードの真んを、背筋を完璧に伸ばし、顎を引き、を真っ直ぐに見据えて歩いていた。 誰の腕にもすがっていなかった。 エスコートするはずの父親はとうに界し、親代わりの母はで潰れている。 郎の健は、祭壇ので顔面を蒼にし、膝をガタガタと震わせてち尽くしている。
美玖は、たったで歩いていた。
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カツン、カツン、カツン。
規則正しいヒールの音が、聖堂の静寂を支配していく。 の傷を庇ってを引きずることも、隠そうとして歩幅を狭めることもない。 堂々たる、完璧なウォーキングだった。
その姿を目にした参列者たちのざわめきが、次第に別のを帯び始めた。 最初は困惑と侮蔑だった。 だが、傷を晒しながらも、ミリの揺るぎもなくし続ける美玖の圧倒な気迫に、誰もが言葉を失い、息を呑んで見つめるしかなかったのだ。
祭壇のまで、あと歩。
健さんが、引きつった笑みを浮かべながら、震えるを美玖へと差しした。 「み、美玖……く……誓いの言葉を……」 その声は、恐怖でかすれていた。 専務や役員たちの徹な線が、健の背に突き刺さっている。 健にとって、この瞬は最の公処刑だった。
美玖は、祭壇の階段のでを止めた。
そして――健さんが差ししたそのを、瞥することもなく、完全に無した。
健さんのが、抜けに空を切る。 「え……?」
美玖は健から線をし、祭壇のにつ国牧師に向かって、く、優雅に礼した。 老齢の牧師は、驚きに目を見いていたが、美玖の澄んだ瞳を見て、静かに頷いた。
美玖は、司式台の横に置かれていた、ワイヤレスのマイクへと歩み寄った。 結婚式のには、婦がこのでマイクを握る予定など、どこにもしなかった。
スタッフが止めようと歩踏みしたが、松キャプテンが静かにを挙げてそれを制した。 もはや、誰にもこの流れを止めることはできなかった。
美玖はマイクをに取り、参列者に向かってゆっくりと向き直った。
チャペル内の全員が、唾をみ込んだ。 最列の加奈子さんが、りのあまりちがりかけたが、隣に座る健の父親が、顔を失ったまま妻の腕をく掴んで引き止めた。 これ以騒げば、富樫の恥の塗りになることくらい、建設会社の役である父親には痛いほど分かっていたのだ。
マイクのスイッチが入る、微かなノイズが響いた。
美玖は、息を吸い込んだ。 その声は、チャペルのい井に反響し、澄み渡るように全員の鼓膜へと届いた。
「皆様、本はお忙しい、私どものためにお集まりいただき、誠にありがとうございます」
完璧な、淀みのない美しい本語だった。 声の震えは切なかった。
「まず初めに、私のこの奇妙な装いについて、ご説とお詫びを申しげなければなりません。最級のミカドシルクのドレスを、このような形で切り落とし、皆様のにつことになりました非礼を、くお詫び申しげます」
美玖は、々とをげた。 誰も声をげない。 静寂が、チャペルを支配していた。
「このドレスの裾は、今朝、私自の志で切り揃えたものです。
理由は、私のこのにございます」