"妹のドレスを二十センチ切った" 第15話
母が絶句し、健さんが目を見いた。
美玖は、子をく蹴りばした。 属のフレームがキャスターを軋らせ、ガラガラと音をてて壁に激突して止まる。
「美玖さん! あなた、何の真似ですの?!」 加奈子さんが髪を乱し、鬼のような形相で叫んだ。 「せっかくのけを……! 子に乗ってを隠せば、恥をかかずに済むと言っているでしょうが!」
「恥?」
美玖が、初めて加奈子さんを真っ向から見据えた。 その瞳は、凍りついた刃のように青くっていた。
「恥って、何ですか?」
「な……」
「私のこのは、、にかけた私がき残った証です。誰かに迷惑をかけた傷でも、罪を犯した印でもない。それを『恥』だと決めたのは、あなたたちでしょう?」
美玖は、自らのでウェディングドレスの胸元をぐっと引きげた。 裾が持ちがり、膝から首までのケロイドが、逃げのない蛍灯のかりのに、くっきりと晒される。
「隠せ、黙れ、座ってろ。そうやって私のを踏みにじって、自分たちの都のいい置物にして……それがあなたたちの言う『慈』なの?」
「美玖ちゃん、やめろよ!」 健さんが美玖の肩を掴もうとした。 「母さんにそんなの利き方するな! 俺たちがどれだけおに配慮してやったとってんだ!」
「配慮?」
美玖は健さんのを、汚い虫でも払うように叩き落とした。
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「私の希望を全部奪って、窓のない部に閉じ込めて、を隠すためだけにキロの布を着せることが配慮? きりのは『勇敢な勲章』で、のでは『グロテスクな欠陥』? 笑わせないでよ」
美玖の唇の端が、たく吊りがった。
「あなたが好きだったのは、私じゃない。傷のあるな女を救ってやる、の広い『富樫健』という自分の物語が好きだっただけでしょ。はただの、世体に怯えた臆病者じゃない」
「な……んだと……?!」 健さんの顔が、屈辱で真っ赤に沸騰した。 殴りかからんばかりに拳を振りげる健さんのに、私は音もなく割って入った。
私は無言で健さんの胸元にを当て、徹にその体を押し戻した。 私の線に、健さんは息を呑み、気圧されたようにを止めた。
「お姉ちゃん、どいて」
背から、美玖の静かな声がした。
「もう、丈夫だから」
私が振り返ると、美玖は私を見ていた。 その瞳には、今朝のあの絶望な憎悪も、迷いもなかった。 ただ、自らので獄の底を蹴りげた者だけが持つ、圧倒な透があった。
トントントン。
ドアのから、慮がちな、しかし切迫したノックの音が響いた。
「失礼いたします! キャプテンの松でございます! 郎婦様、入のおまであと分でございます! チャペルにはすでに両のご列席者様、ご来賓の皆様がご着席されております! ご準備はよろしいでしょうか?!」
タイムリミットを告げる声が、いドアの向こうから容赦なく響き渡る。
加奈子さんはに散らばったカサブランカを踏み越え、美玖のにちはだかった。 その声は、もはやりを通り越し、狂気に満ちた脅迫へと変わっていた。
「美玖さん。最の警告です。今すぐそのブランケットを拾い、子に乗りなさい。さもなければ……この結婚は破談です。挙式は止、披宴も止。あなた方のには、数千万円のキャンセル料と損害賠償を請求しますわよ。藤堂の恥を、世に晒すことになりますのよ?!」
母が鳴をげて私の元にすがりついた。 「美玖、お願い……お願いだから言う通りにしてぇ……!」
部ののすべての圧力が、美玖の細い肩へと集していた。 数千万円の賠償。破談。世体。親戚の目。 アの「世」という名の巨な怪物が、をけて美玖をみ込もうとしていた。
美玖は、加奈子さんを瞥もしなかった。 健さんにも、泣き叫ぶ母にも、線をくれなかった。
美玖はゆっくりと、姿見の鏡のへと歩いていった。 鏡のに映る、自分自の姿。 最級のミカドシルク。 背に流れる、完璧なメートルのロングトレーン。 そして、裾から覗く、赤に引きつれた、無骨で、々しい、自らの傷痕。
美玖は、に落ちていたブーケの残骸から、本だけ折れずに残っていた純のカラーを拾いげた。
その茎の汚れを、ドレスの切れ端でキュッと拭き取る。