"妹のドレスを二十センチ切った" 第12話
それを……こんな品に切り刻んで。まるで、酒の客引きのような格好で、うちの健の隣にとうというのですか?」
「ひっ……!」 母が喉を鳴らして震えがった。
「うちの親族だけならまだしも、今は健の会社の役員の方々、専務ご夫妻や常務ご夫妻、事なお取引先の社様方が何名とお見えになっていますのよ。その方々ので、こんな醜い傷跡を晒し者にして、がの品格をに堕とすおつもり? 私たちはね、傷物の娘さんを憐れんで、寛なでに迎え入れてあげようとしていたんですのよ? その恩を、こんな侮辱で返すなんて……!」
加奈子さんの言葉は、語語が毒針のように研ぎ澄まされていた。 「憐れんで」「迎え入れてあげようとしていた」。 それが、この半の、砂糖菓子のような笑顔のに隠され続けていた本音だった。
私の両拳に、爪が皮膚を破るほどの力がこもった。 血液がへ逆流し、界が赤く染まる。 今すぐにびし、この傲な女の襟首を掴んで、その加賀友禅ごと壁に叩きつけてやりたかった。 「傷物」? 「憐れみ」? ふざけるな。美玖がどれだけの激痛と絶望に耐えて、き抜いてきたとっている。
だが、私は歩を踏みしかけたところで、奥歯を噛み締めて踏みとどまった。
――『お姉ちゃんがやってることは、あのお義母様と同じよ!』
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今朝、美玖が泣き叫びながら私に叩きつけた言葉が、の奥で激しく警鐘を鳴らしていた。 ここで私が割って入り、美玖を背に庇って言い返せば、私は再び「妹の代弁者」になってしまう。 美玖からマイクを奪い、美玖の戦いを奪い、妹を無力な子供の席に座らせ続けることになる。
私は壁に背を押し当てた。 たい壁の触が、煮えつ脳をやしていく。 私は両腕を胸ので固く組み、部の最も暗い隅へと、半歩退した。
私の役目は、戦うことではない。 美玖が自分のでつ瞬を、誰にも邪魔させないことだ。
「健」
美玖の、静かな声が響いた。
泣き叫ぶ母の声でも、加奈子さんの罵倒でもない。 乾いて、透き通った、凛とした声だった。
そのにいた全員の線が、美玖に集まった。 美玖は加奈子さんを見ていなかった。 ただ、その隣で血の気を失い、幽霊のようにち尽くしている健さんだけを見つめていた。
「健。あなたはどううの?」
健さんは、びくりと肩をねさせた。 オーダーメイドの純のタキシード。胸に挿したチーフ。完璧にえられた髪。 だが、そのった顔ちには、今まで美玖に向けていた「優しい王子様」の面はどこにもなかった。
そこにあったのは、壊れた玩具を見るような、純粋な狼狽と、底れない嫌悪だった。
「健さん……何か言ってやってちょうだい!」
母がすがるように健さんの裾を見げた。 「美玖を叱ってください! でも、結婚だけは……破談にだけはしないでやってくださいまし……!」
健さんは母を見ず、退るように歩、を引いた。 そして、額に滲みた脂汗をの甲で乱暴に拭いながら、引きつった笑いを浮かべた。
「美玖ちゃん……嘘だろ? 冗談だよね?」
その声は、けないほど擦っていた。
「こんなの、悪趣なドッキリだろ? 本物のドレスは別にあるんだよね? そうじゃないと……そうじゃないと説がつかないよ」
「これが本物よ」 美玖は歩、健さんに向かって踏みした。 切り落とされた裾から、の赤黒いケロイドがわになる。 「お姉ちゃんが切って、私が切り揃えたの。これが、今の私の姿よ」
健さんの喉から、ヒッとい息が漏れた。 彼は無識のうちに、美玖の元から線を逸らした。 かつて、病で「俺は全然気にしないよ」と優しく微笑んでいた男の目が、今は汚物を見るように泳いでいた。
「なんで……なんでこんなことするんだよ!」 健さんの声が、りで裏返った。 「今がどういうか分かってんのか?! 俺の同期も、輩も、みんな来てるんだぞ! 『富樫の嫁はどんな美なんだ』って、みんな楽しみにしてるんだ! には専務だっているんだぞ! 次のシンガポール支社への栄転がかかってる、番事な期なんだ!」
「私のは、あなたの世の邪魔になるの?」
「当たりだろッ!!」
健さんは鳴り散らした。