"妹のドレスを二十センチ切った" 第10話
繊細なレースのオフショルダーから伸びる華奢な首筋。 職のによる豪奢なパールの刺繍。 ろには、を滑るように広がる、メートルもの優雅で荘厳なロングトレーン。
しかし、正面の裾だけが、無残にもかった。 膝センチから首にかけて、すっぽりと空が空いている。 そして、その空のに、美玖のの、赤の引きつれたケロイドが、真っなシルクに縁取られるようにして、剥きしになっていた。
まるで、純のカンバスに、暴力の記憶を無理やり叩きつけたような景だった。 醜悪と神聖が、つの体ので激しく衝突していた。
「……綺麗よ、美玖」 私の喉から、絞りすような声が漏れた。 それは嘘ではなかった。 世が求める「無傷の美しさ」では決してない。 だが、傷を抱えたまま、逃げずにち尽くす妹の姿は、恐ろしいほどに神々しかった。
美玖は鏡のの自分を、度だけたい目で見つめた。 そして、チーフに向かってさくをげた。
「ベールを、着けてください」
いフェイスベールがろされ、美玖の表がいチュールの奥へと隠された。
ちょうど。 マンションのに、ホテルが配した黒塗りのセンチュリーが滑り込んできた。 運転がトランクをけ、母が震える取りで乗り込む。
私は美玖のいトレーンを抱え、階段をりた。
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所のがゴミしにてきて、異様なドレス姿の美玖を見てを止めた。 「あら、美玖ちゃん、今お式……?」 所の主婦の声は、美玖の元を見た瞬に途切れた。 好奇と困惑が入り混じった線。 母は顔を伏せ、逃げるように内へと滑り込んだ。
美玖は背筋を伸ばしたまま、歩歩、確固たる取りでハイヤーへと乗り込んだ。 を庇う様子すら、そこにはなかった。
内は、んだような静寂に包まれていた。 首都速をるのタイヤの音だけが、ゴーッという音となって内に響く。 母はずっと数珠を握りしめ、目を閉じて祈るように刻みに震えていた。 美玖は窓のを流れる京のビル群を、ただ無言で見つめ続けていた。
私は助席から、バックミラー越しに美玖の元を見た。 座席の元に、切り落とされたドレスの裾から覗く、赤黒い傷痕。 それは、これから私たちがを踏み入れる「格式と伝統」に満ちた世界に対する、宣戦布告の旗のように見えた。
分。 は、比にある老舗ホテル『帝国クラウンホテル』の寄せに滑り込んだ。
正面玄関には、すでに黒いモーニングを着た式のキャプテンが待ち構えていた。 ドアマンが恭しくドアをける。
「婦・藤堂美玖様、ご到着でございます」
キャプテンがくをげた。
だが、美玖がからりち、その元が朝の陽のに晒された瞬、キャプテンの線が微かに揺らいだ。 流ホテルのスタッフとしての訓練が、かろうじて彼の表を保たせていたが、その喉仏が度、きくしたのを私は見逃さなかった。
「……お控えへ、ご案内いたします」
キャプテンはあえて何も触れず、私たちを専用エレベーターへと誘導した。 般の宿泊客の目に触れないよう、厳に管理された線。
最階、婦専用の特別控『鳥の』。 なマホガニーのドアがかれ、へと通された。 部のには、すでにとりどりの祝や、豪奢なカサブランカのスタンドが所狭しと並べられていた。 すべて、富樫の関係者や、健さんの勤務先の役たちから贈られたものだった。
『祝・御結婚 富樫健様・美玖様』 『両の幾久しいお慶びをよりお祈り申しげます』
の文字でかれた祝辞の数々が、部の空気をいっそう息苦しくさせていた。
「郎様と、お母様がもなくご挨拶にいらっしゃいます」 キャプテンが礼して部をてった。
部に残されたのは、私と美玖、そしてソファーにへたり込んで過呼吸気になっている母のだけだった。
「どうしよう……どうしよう健さんが来ちゃう……あのお義母様が見たら、失神なさるわよ……!」
母が爪を噛みながら呟く。
「お母さん、静かにして」 美玖がたく言い放った。 美玖は部の央に置かれた姿見のにち、自らのでベールの位置を直していた。